- C 996話 聖女と魔女 1 -
茶会に招かれた理由は、“治癒玉”についての話だ。
売り上げが大変よろしくて、冒険者ギルドを通じて学園が潤っているという。
まさかこんなトコで間接的に聞かされるとは。
「――そこで提案があるんです」
聖女さまからMPドリンク“エネルゾーン”が瓶ごとご提供。
卓上に紅茶と並んで置かれた時の場違いは異常すぎる。
「これ、は?」
「丸恵さんならどう加工なさいますか?」
おっと。
“治癒玉”の前振りは、これに繋がる物だったか。
「どう、とは」
ボクならば、すでに魔紋シートで答えが出ているけど。
仮に貼るではない方法ならば、舐める...かな。
ポーションは、実のところグミとして食べるが先行していたから。
口に入れる形で加工と改良が施された。
ただ、MPドリンクの方は。
治癒水剤でもMP総量の約(個人差あり)2~3%が回復できるっていう状況だったので。
スポドリのように舐めやすいとか、吞みやすいって改良する意味が。
ボクの中で湧かなかった。
至って個人の都合なんだけどね。
◇
悩んでるフリをしてみた。
王太子や地雷王子に司教令息との絡みは、そこそこだし。
地雷君は逃げると、追いかけてくるタイプだった。
上記の他ふたりは絡みさえしなければ一時的に気を引く程度で。
たぶんエサちゃんほどの関心はないんだろ。
自慢のお嫁さんだからね。
立ち姿には品があって、白薔薇のように凛とする。
自信ありげに自然体で腕を組めば――
ぱんっと張った豊胸が、視線のほぼすべてを奪っていく。
まさに公爵令嬢。
いや、ここは悪役令嬢か。
エサちゃんのロールは、王家の血統を補う者という位置づけのよう。
背景的には、血統の不信が暴かれぬよう定期的に、みっつの公爵家から妃候補を迎え入れる必要があるという事で。王太子はこの息苦しい慣習に辟易していた――と。
まあ、そういう流れで。
元男爵号から没落した聖女、マーガレットと恋に落ちた設計なのだそうな。
乙女ゲーか。
なんちゅう危うい、いや。
わりとそれっぽい。
まま、その背景を別角度で解釈すると、だ。
政権交代劇もありうるんじゃね?
とりま、テューダー王朝からスチュアート王朝へ変わる兆しのような。
“エリザベス1世”の下に子はなく、彼女の父“ヘンリー八世”の姉“マーガレット”の嫁ぎ先のスコットランド王“ジェームズ四世”の孫、“メアリー・スチュアート”はスコットランド王も継承してて。2番目の旦那さまであるダーンリー卿“ヘンリー・スチュアート”も、彼の母が“マーガレット”(“ヘンリー八世”の姉)の祖母という血統から、ふたりの間に生まれた子がイングランドもスコットランドも継承しえたって話で。
1603年に“エリザベス1世”が崩御した後、
スコットランド王ジェームズ6世、イングランド王ジェームズ1世という新たな王が立った。
乙女ゲー的ご都合主義が働くとしたら、こんなシーン。
王朝の初代国王から続く女系血統。
現王族には血統から成る正当な継承権がないことが判明して、教会が介入して王権が剥奪される。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
え、あ、はい?
今、語り部としていい所なのに。
「な、なんでしょう」
「自分の世界に入り込んでるようだけど、丸恵さん... 寝てました? 真剣に別なこと考えてませんでした? MPドリンクの加工についてですけど――」
うっわ、完全に飛んでた。
いつからだ。
いつから...
そうだ、エサちゃんのロール背景について脇見運転した時からだ。
あー。っー、無念。
完全に忘れてたー。
「あははは、飴、、、、、、か、な?」