- C 995話 茶会イベント 4 -
温室を後にしたボクらは、屋上の別施設へ。
彼女たちの部室みたいな物置小屋だ。
窓もあるし、ソファも買い込んで、壁掛けの80インチ大型テレビもある。
ひとつしかないシャワールームから男の娘グレイシー君が。
大胆にも腰巻ひとつで、ボクの目の前を横切ってた。
「お、おい!!」
司教令息アルベルトの怒号。
レディの前だって促したつもりだけど。
腰を捻ったとこでポージング。
「四肢は自慢だけど、実は竿も」
「――」
絶句じゃないな。
呆れてた感じだ。
確かに細くて透き通るような白い肌の四肢。
指の先まで奇麗でふつくしいなんて、誰が思う?
ボクが思う。
なんか色々で、負けた気分だ。
匂いとか色香とか、妖艶とか?
「丸恵さんは『かわいい』の属性だよ。妖艶なんて微塵にも感じないし、私と一緒にロリータでキメてさ、手を絡めて人工島の一周とかしたい気分。だって、妹属性みたいな感じさえするし」
宰相令嬢から頭を撫でられる。
エサちゃん以外から『かわいい』と褒められることは暫くなかった感じがする。
しかもよく見れば、異性なわけだし。
うん。
これは悪くない感じがする。
顎を摘ままれて、グレイシー君側へ引き上げられた。
ボクの唇はそうだなあ。
下唇が少しだけふっくらしてる。
他の部位はもう少し肉付きが欲しいところだけど。
「ほら、丸恵さんの小顔が映えるよ?」
リップくらい塗ってくるんだったあー。
悔しがるボクに彼の指が唇へ。
「えへへ」
にへにへしてしまってた。
頭上では『この子、ちょろいよね』なんて、聖女と会話する声が飛び交ってて。
本当ならそこで「わん」とか吠えるべきだったんだ。
なんでもいいから。
「丸恵さんで遊ばないの。これから彼女とはビジネスの話をするんですから」
聖女“マーガレット”からの宣言だろ。
この茶会が何故、行われるかの状況説明のような。
◇
部室の奥に談話室がある。
いや、部屋としてはリフォームされた痕跡があるから、昔は別の用途で使用されてたのだろう。
この談話室はまあ、外交目的で使用されている雰囲気だ。
「外交ですか」
当たらずも、でしょ。
マーガレットは微笑み、鼻を鳴らした。
相変わらずだけど。
アルベルトは聖女の後ろに控えている騎士のよう。
「クランには王太子も居るから、菓子や軽食で彩った豪華な催しのように思われがちですけど。聖女である私がロール的にも市民階級の上、男爵だった祖父が事業を起こして商家になったというものですから。父や母からは、平民の慣習しか受け継いでいないのです」
貴族だって一括りに見るのは少し乱暴なこと。
貴族の殆どは地主である。
当然、彼らの収入は相続した土地から得る税収や、特産品の売買利益だ。
また国王よりも、支配領域が豊かな貴族はしばしば声が大きくなる傾向があった。
ナーロッパでも珍しくない、公爵とか辺境伯なんて人々で。
稀に“王”を自称する者もある。
しかも、国王の王権に敵対するから政体は、地方分権であるわけだ。
で、もうひとつ。
爵位が名ばかりである場合の方。
財政難の中で苦肉の策として考案されたのが、准男爵号の販売。
男爵の下で、騎士の上。
それでも身分は平民という微妙な立ち位置だけど、家に箔が付くので買う人は多かったらしい。
考案者はスチュアート朝初期のジェームズ1世って王様らしい。
土地収入がない男爵も中世より時代が新しくなると、増えていった。
「あ、いいですよ~ ボクもロール的には子爵だけど。堅苦しいのは苦手だし」
嘘じゃない。