- C 989話 証人保護と魔女 1 -
八ツ橋の調査により“お試し”の成分に依存性の高いものは無かった。
むしろ、滋養強壮とか、不眠症への治療にも効きそうなものばかり。
じゃあ何故、記憶が飛んでしまったのか。
じゃあ何故、ハイになったのかの説明がつかない。
研究員曰く、会場の雰囲気に酔ったのではと。
科学者から非科学的な話が出る。
◇
魔法薬科へエサちゃんを招き。
ボクと先輩とで顔を突き合わせて、
「これは、かつての“治癒玉”みたいなものだよ。魔法薬科の者ではなく、マルちゃんと同じ。冒険者として、薬瓶で持ち歩かなくて済まないかって。提案した者が試作した“マナ・エッセンス”、“恩寵”と呼ばれた飴玉の欠片だね」
つまり。
ポーションも、飴玉にして持ち歩けたらいいなって思ってたかもしれない、先輩がいたってこと。
しかし、その前に力尽きてしまった模様。
「MP回復ドリンク“エネルゾーン”は、製薬会社からVR向けに発売されている栄養剤なんだけど」
マジか、知らんかった。
確かに人工島の製薬会社な社章だなあって思ってはいたけど。
「飲み過ぎると、糖尿病の原因にもなって。おしっこが甘ったるくなるでしょ?」
糖質過多ってヤツだ。
人間、年齢を重ねると酸化して錆びるんだって話。
その時に若い頃不摂生だったならば、石灰化した部位が軟骨や神経に障りをもたらすという。
何事もほどほどが一番だ。
「飴玉ほどの大きさで、“エネルゾーン”を舐めることが出来たならば、1日3本までの条件から解放されるのではないかって思ったらしい。まあ、少なくとも初心は善行から始まった」
ほどなくして、試作品は闇に流れる。
人形人参にポーズを付けさせてた、エサ子が語りだす。
「当時、留年して5年生になった生徒のひとりが“東塔”から飛び降りてしまった。事件性が無かったので、生徒の自発的行動――つまりは自殺で終幕したかに見えたけど。遺書めいた紙片が後日、別の友人に宛てた遅延配送の郵便物から発見される『わたしは“悪魔に魂を売ってしまった”』と。再度、当局に捜査依頼が持ち込まれるんだけど」
先輩も輪唱でもするように、
「生徒の死を予兆させるような内容であるため、再捜査は棄却。幾人の探偵が送り込まれるも、変死、怪死、失踪などもあいまって、結果的に民間での捜査に行き詰まって。お蔵入りしたとか?」
息ぴったりだよ、このふたり。
ハイタッチでもしてニマニマしてる。
ボクが泣き出すのでも待ってるのか?
ふ、ふふん。
そんな怪談しても、涙なんてみせるものか!!
「わっ!」
ぎゃーっ
ボクの後ろから買い出しに行ってた他の薬科部の生徒が戻ってきた。
で、怖い話をしてたんで。
背中を丸めてたボクに声をかけたのだとか。
「きゅ~」
涙ボロボロながして、蹲るのはボク。
でも、ここでひとつ分かったことがある。
この学校には、生徒の成果を掠め取った犯罪者がいるってことだ。