- C 988話 キャンディと魔女、5 -
まあ、本来ならば。
いやストーリー上で、悪役だった筈。
ロールプレイングを楽しめれば、だ。
聖女を貶める行為が赦されている。
合法的に。
寮長だって、(恋愛パートの)攻略組でかつ、難攻不落な“グレイシー・ケッツハット”宰相令嬢を陥落させた。作中――学園の共有スペースに薄い本のコーナーがあって、“小説をだそう”って場なんだけどね――公式公認の“王立学園物語”に収録されてる、『覇王と令嬢』って作品。
鉄面皮だった宰相令嬢を口説き落とした、覇王の偉業が書かれてる。
事実、寮長は1年生からずっと口説いてた。
聖女が入れる隙が無いうちから、もうずっと...
3年生になって、遂に篭絡に成功する。
卒業間近になって覇王の隣には、“グレイシー・ケッツハット”嬢があるそうだ。
「西塔に引っ越したっていう女生徒って...」
“支配”の塔の別名で、王冠を紋章に掲げる寮のこと。
エサちゃんの同学年だと、宰相令嬢ロールを可愛い男の子が演じてるんだけど。
あれはあれで。
ボクは好物かなあ。
も、もちろん、観賞用として、だよ。
い、あ、、、、 き、きのこには興味、、、、ないって。
「そ。寮長の彼女さんで、落とし文句こそサイコパスだけど婚約までOKさせちゃったんだって。いや、製薬会社の御曹司は行動力も凄いね!!」
だって。
いやいや。
八ツ橋家も大概ですよ、ボクから言わせたら。
◇
ボクは学園内で唯一の味方がある、魔法薬科へ転がり込む。
ソロで動くときは女生徒然としてあることが多く。
短いスカートに、フリルが首を圧迫する上衣に悩まされながら。
「あっれ?! 珍しい。そのスカートの下はナマかな???」
“調和”寮に在籍する3年生。
ギルドライブを見て、それでも司馬丸恵を応援してた“変人”だが。
この制服を勧めた人でもある。
「流石にスースーするんで、スパッツ履かせて貰ってるけど。それでも、ズボンじゃないのは、性格的にもストレス溜まりそうです」
ボクは、ヒラヒラがキライだ。
だって何履いてたって、スカート無かったらケツ(ライン)丸出しの痴女じゃんよ。
あかん、あかん。
落ち着かない。
「まあ、どれ?」
スカート端を捲って、スパッツを覗き見る先輩。
「透けてないし、割れ目も出てないからセーフだね!!」
っ、じゃないでしょ。
「や、ごめーん。マルちゃん貌、こわーい」
くぅー。
この先輩、VRの中でのエサちゃんみたいなんだよなあ。
人懐っこいし、憎めない性格だし。
「――で、その恰好で中立に来た理由を聞こうか?」
そして仕事モードに入った時のギャップは萌える。
「麻薬の出処が知りたいです」
キャンディのサンプルを渡した。
魔法薬科が創った可能性は十分にあるけど。
顧問も含めて、お世話になったから。
ボクは心の底から信じていいと、そう、感じたわけで――。
「ふふん、そっか。魔法薬科が創ったかもとは... 失敬。ソレ込みでも信じてくれたわけだね、いいよ。いいよ、だからマルちゃんは貌が怖いって」
先輩が先輩の貌で、髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱していく。
鼻をぐずつかせながら、
「ここはお姉ちゃんとして後輩の世話、焼いちゃおうかなあ。成分なんかは、八ツ橋んとこで調べてるんでしょ? ああ、エリザちゃんと水差しが一緒なのは知ってるから、魔法薬科は過去の事例で“魔女狩り”の手伝いをする、さ」
◇
後日。
魔法薬科からハトが来る。
暗号めいた短い文章で――“恩寵”が再び――。