- C 987話 キャンディと魔女、4 -
学校に戻ってみると、いつもと変わらない風景がそこにあって。
流石に出会い頭に石が投げられることは、無かったけども。
これをいつものと言うのには無理がある。
まあ、この謎の敵視ってのは直ぐに露見して。
「とうとう、エリザさんまで本当にロールプレイングに目覚めちゃいましたね! おめでとう」
だって。
“支配”の塔を統括し、寮長まで引き受けちゃってる奇特な方。
4年生の侯爵令息さまである。
えっと、たしか...
『“エオメル”。マーシア王国の開祖の父って設定でね』
耳の傍でボクに解説してたエサちゃんに。
「よくご存じだね、エリザ嬢」
と、寮長は感激してた。
とは言うのも、ブリテンの七王国時代ってのはストーリー的には面白い。
アーサー王と円卓の騎士にも通じる世界観だし。
赤く燃える流れ星を見て、ドラゴンを想像してしまったロマンティストが居たってんだし。
ボクは好きなんだよなあ、こういう歴史もの。
おっと。
でもね、マーシア王国はノルウェーやデンマークから来た、大異教徒の軍団に飲み込まれていく運命で――その過程から、ウェセックス王国の偉大なるアルフレッド大王が、イングランドをひとつに纏めていくんだわ。
だから、あまり多くの資料が残ってない。
いあ、現地の学術機関や資料館へ行けば、もっと詳しく調べられると思うけど。
このガジェット汚染された、私立学校と。
七王国のマーシアとは関係ない様に思えてならないんだけども。
「おお! なかなかに鋭い子だな。飴ちゃんを挙げよう」
寮長がボクを子ども扱いしてくる。
まあ、いいけど。
◇
寮長いわく。
これは“支配”の塔という寮に伝わる、噂話の一つ。
ちょっと学校七不思議に掛けてるみたいなことを付け加えてて。
「七王国は演出上の舞台装置でしかない。けれども、学校の目指しているのは“世界の理”に干渉できる力の発掘だって話だ。まるで御伽噺のようなふわっとした理由だろ?」
いや、そうでもないか。
素数で組まれた堅牢な扉に物理的な攻撃は無意味だけど。
ファミリアのようなガジェットで、創造性という世界から干渉したら?
或いは、堅牢な扉も城壁も城塞だって平面に書かれた、ただの餅に成り下がるんじゃないか。
なんて不謹慎にも真面目に考えてしまったけども。
悪役なんとかのプレイヤーが集う“支配”の塔に向けられた剥き出しの敵意は、警察を非合法なパーティーに誘い込んだのが、八ツ橋の家の者だってバレたからだっていう。これはお爺ちゃんが危惧してた心配事の一つ。
エサちゃんは、
「このロールを選択した時から、唾を吐かれてるようなもの。今更、気に掛けるほど心はか細くはなくてよ? ま、これで面白くなったとも言えなくもないかな」
今までが張り合いが無かったと、彼女は言う。
まさか。
教室へ行ったら――
エサちゃんの机の上に白い花が。
あからさまな虐めが始まった。
ちょっと待って。
悪役令嬢を虐めるシーンなんてあった?
「やだ、これ新鮮!!」
柏手打って、
サイコパスなエサちゃんが楽しそうだ。
周囲が忌避する中で、はしゃぐエサちゃんの温度差が怖い。
「ねえ、これ。どなたのセンスですの」