- C 984話 キャンディと魔女、1 -
3日ほど宿泊させられたボクは、漸く、八ツ橋十蔵氏が本人の手によって助け出された。
一般のモブ生徒たちは今も、キャンディが残していった爪痕に悩まされている。
「済まないね、この事態と状況の把握のために」
十蔵さんはエサちゃんのお爺ちゃんだ。
ボクの~ではない。
けど、なにかと骨を折ってくれる家族みたいな方。
しかも十蔵氏の周りでは、ボクら司馬一族に敵愾心を持つ方々が、いないのも有難い。
「いえいえ、大丈夫ですよ。むしろ、同じような状況にエサちゃんが居なかったから耐えられたと思います。ですから気にしなくて大丈夫ですよ?」
本音なんだけど。
虎の尾を踏んだとはその時は思っていない。
「なんと?! その場にエリザが!!!」
おっと。
これは不味かったか。
なんか踏んだかな。
そう。
地雷をだ。
◇
八ツ橋家。
十蔵氏は総帥として君臨する絶対君主である。
八ツ橋宗家として、幾多の親戚筋を束ねたとこにあって――
これが面倒なんだ。
家訓では宗家継承は、当代宗主の選出した者と婚姻するひつようがある。
血統主義じゃない点は凄いんだけど。
お家騒動は、他家よりも激しく燃える時がある。
広大な不動産物件を持ち、有力な企業も傘下に従えている、まさに“王国”だから。
直系でも当主の座は、虎視眈々と狙ってる訳で。
ここに司馬家という部外者がある。
いやあ、厳密にはまるっきり部外者じゃないんだけど、血が薄くてねえ。
八ツ橋一族の傍流、葛という家があって。
ここの嫡男が家を飛び出して...だねえ。
司馬に婿入りしちゃって、まあ、縁が結ばれたと言いましょうか。
司馬は代々、兵馬の技を鍛えてきた傭兵の流れ者。
荒れ狂った時代でなら気難しい覇者の下で、東へ、西へと戦いに開け狂い。
培った用兵と武術で稼いでた時期もありました。
歴史上ひょこっと出たのは、島原の乱か。
あの後、摘発を恐れて国外逃亡したようで。
八ツ橋の目に。
いや。
当代宗主の目にとまったのが、約20年前。
ボクが生まれる以前に、母の一恵が十蔵氏に囲われたという話が。
あ、いや。
ボクは十蔵氏の隠し子じゃないっス。
とお~い親戚ですよね? って流れで保護されたような雰囲気で。
十蔵お爺ちゃんの子飼いとなる、宗家守護の皆々さまとは微妙な距離感だけど、不仲じゃない。
その中に“葛”家も入ってるんだけど。
仲は悪くない。
どっちかと言うと、葛家当代家長がボクより6歳上のお姉ちゃん的存在で。
ハナちゃんとも1、2歳近いようなので。
わりと円満なようなとこ。