- C 982話 魔女の宴へご招待 2 -
主催者は常に隠れ蓑にされてきた。
この宴の支配者によってだ。
はじめての客には“飴玉”はお試しで用意されている。
ひとり、ひとつづつ。
カップルならふたつ用意されて、舐めるまで監視がつく。
キャンディの効果は絶大だった。
意識がはっきりしている錯覚を見せる。
バトルジャンキー状態と同じ結果をファミリアに伝え、舐めてる本人には体温の急上昇が伝わる。
高鳴る心音。
汗ばむ肌。
乾く喉。
この場の雰囲気に呑まれたんだと思わせて。
アルコールが少量のジュースを求める訳だ。
ちょっと羽目を外した程度に思わせて――下着姿で裸踊りさせるクスリ。
◇
冷静沈着のエサちゃんは、ボクの口から飴玉だけを抜き取ると。
陰になった柱に吐き捨てた。
麻薬に侵されたボクの唾液を懸命に吸い出してくれる。
「ちょっと、ミイラ取りがミイラになるの早すぎ!!! しっかりしてよ、大尉」
おっと。
そのコールを何処で知ったですか。
「お爺ちゃんから話聞いてるから、お仕事モード終わらせて。はやく、いつものマルちゃんをわたしに返してよね。素が一緒でも照れ方や、恥ずかしがり方が少し違うだけで気になるんだから、ね!」
あ、はい。
すみません、別人格で。
司馬丸恵はふたり居る。
厳密には“お仕事モード”と“普段モード”って呼ばれる人格がふたつ。
例のぴーがーがががーぴ、ぴ、がーってファックスみたいな電子音のアレがトリガーになってる。
切り替わるための準備が知らされ。
鏡の前に立てば、あちら側にもうひとりのボクが見えるようになる。
文字通り、虚像がふたつ鏡に映ってるわけ。
二重人格の表現法だけど。
エサちゃんが相手だと、どうも勝手が違うらしい。
甘噛みされた時の身の捩り方や、逃げ方とか、逆上せるまでの所作とか。
むー。
今のボクはまったく、耐性が無いんだという。
エサちゃん曰く。
「エッチなこと妄想してる男子を見てるみたい!! 甘噛みしただけで逝かないでよ」
だって。
いあ、それは指が。
「それで、その...目的を知ってるというのでしたら? その」
飴玉は口の中から取られたし。
もう棄てられたから、何処に落ちてるかなんて。
地下の妖しさを出すために照明はもともと暗い。
まあ、実際に地下だし。
汚水の臭いも少し混じる。
そんで我に返ると、少し寒いってんだから.......
「これ、腰に来ますね」
「そんなジジ、ババみたいな話。う~ん、いあ、確かにおしっこ行きたくなるかも。みんな気にせず垂れ流してるみたいだし、麻薬って怖いね」
今更。
「でも、わたし舐めてないし。これを手土産にすれば宴の摘発も容易じゃない??」
そう簡単には。
主催者側が演出として媚薬を配ったと主張されると、製造元には届かなくなる気がする。自治政府からも、この件で依頼を受けているから。
当局にはもう少し確実な情報を掴ませたい。
「それはそれとして」
再び口吸いされて。
鼻頭を指ではじかれた――痛いです、エサちゃん。
「それ、その反応。わたしのマルちゃんじゃない!! ほら、泣きついて」
いあ。
今、ボクの奥でもうひとりが“激しく”否定しているんですが?
「人探しでしたよね」