- C 979話 魔女の宴に呼ばれるまでの日々 9 -
よくも悪くも、目立つことに変わりなく。
夜な夜などこかの誰かが主催している、“魔女の宴”に先ず潜入しなくてはならない。
エサちゃんから受けた依頼と。
中庭の菜園に身を置いて。
ずっと、緑色のトマトを眺めてた。
「自治政府から前金が振り込まれたのを確認しました」
庭師がボクの背中に告げてる。
ボクも膝を土に突きながら、
「その庭師の職も八ツ橋が?」
「ええ。翁には個人的なお礼をしないと...なりませんね、大尉」
自治政府に推薦してくれたのもエサちゃんのお爺ちゃんで。
人工島への密入国後の世話も彼がしてくれている。
なにも聞かず、見返りも期待せずに。
ただ、ただ。
かわいい孫のためにか。
「で、今後は?」
ハウスの成長はいい。
赤く染まったトマトを収穫して、ボクの差し出してる掌に載せてくれた。
「魔女の宴っていう秘密のパーティに潜り込む必要がある。とは言っても、主催者が誰でどこで開かれているかなんてのは、関係者が寄こす専用の招待状が届いてからでないと、分からないと言うんだけどね。ここから察するに、情報の漏洩ってのに機微な者が絡んでると見ていいね」
ままごとひとつでこの秘密主義。
ため息も出る。
トマトの香りを嗅いで、喉が上下に動く。
これ食欲かな。
なんとなく食べてた。
◇
大祭中の冷めた目が痛い。
昨日にやらかした中継が問題なのはわかるけど。
悪役ロール組の好奇な視線と、入り混じる敵視が物凄く痛い。
「これ、悪役ロールのぢゃないよね?」
流石の司馬丸恵でも、エサちゃん相手に小声になる始末。
うっわ、めっちゃ小心者だった。
「うーん、普通じゃない? 悪役令嬢のカードを引いた時と似た感覚。えっとね、カネがあるのにとか。順番も早かったのに、なんてひそひそ小声で言ってて。実のところ配役なんて早い者勝ちだって分かった時の生徒の、アホ面をマルちゃんにも見せたかったなあ。ロールプレイングの本当の楽しみ方や意味を知らないの」
ほわっ。
「マルちゃんのはデビューしただけ。おめでとう、悪役側へ」
「あ、ありがとう」
成り行きでヒールに堕ちた子もいるだろう。
それこそ順番で最後に残ったカードがジョーカーだった。
普通なら泣きたくなる。
でも、エサちゃんは一番早く、そして寄付金はボクが転入する前まで、いちばん多額だったという。
御祖父さんのカネじゃなく、エサちゃんが両親の仕事を手伝って稼いだバイト兼小遣いだっていう。
おお、マジかよ。
ボクがまるでダメダメな子じゃないですか。
「マルちゃんが稼いだカネで自立しちゃうと、うちのお爺ちゃんが泣いちゃうから。それはそれで正解なの、どんどん頼ってヒモになってくれると...うん、わたしも嬉しいな」
えー。
それはちょっと...
「ほら、ヒールなんだから猫背は禁止!!」
尻を叩かれた。
こう腰を入れて背筋を伸ばせって発破かけられたような。
そこで縫い目に沿ってエサちゃんの指が這う。
お、おっと、ここで始めなくても。
「前を見て? 向こうから来たよ」