- C 977.5話 ギルド中継、白熱の暴挙を目撃 1 -
王子ふたりの制止も空しく、聖女をこの場から一発退場させた。
聖女以外に蘇生魔法を掛けられる者はいないし、欠損部位の再生や広範囲回復魔法なんて高度な陣地形勢だって、プロの魔法使いでも難しいこと。それらのすべてが聖女ひとりに背負わされてたわけで――要するに何人ものモブ治癒士があっても、だ。
継戦力の要は聖女なのだということ。
今、その最重要ポジションを狙撃し終えたのが、ボクで。
高らかに嗤うドラゴンが真横にある。
彼にしてみれば前代未聞の“仲間割れ”であろう。
ボクひとり vs 聖女を失ったクラン19人の睨み合い。
この間に蘇生魔法が使えないけど、どうにか復活させられないかであの手、この手を使ってた治癒士と、アイテム士があって。それでも柘榴のように後頭部が弾け飛んだ、聖女の生命線“20秒”が空しく過ぎて、彼女はダンジョンのルールに従って塔外へと放り出されてた。
で。
聖女は気付くのである。
これらの暴挙とも蛮行とも言える行動が、冒険者ギルドによって生中継されてたことに。
まあ、前代未聞の出来事は続く。
◇
聖女を失ったクランと、パールライス子爵とのPvP。
ルール上、私闘なり決闘がある以上は、どのシーンでもプレイヤーを狩る事が出来る。
例えば、ダンジョン内で見知らぬパーティにモンスターのTGTを擦り付ける行為“MPK”も。
ただし行為自体はマナー違反であることは、しっかりと明記しておく。
さて、ボクはボクの行動が中継されてるとは思ってもみなかった。
そんな気配があっても。
たぶん、ジャイアントキリングだって言って、このクランに限らず...
ドラゴン欲しさにちょっかいは出してたと思う。
「先ずは、ひとつ!!」
これは聖女のこと。
タンクの王子ふたりはブチ切れてるけど、無視。
次に狙うのは。
挑発スキルを弾き返して、
瞬歩と、緊急回避でシーフやスカウトからの投擲をすり抜け。
「治癒士を護らないとっ」
アドバイスはする。
たぶん必要はないかもな、連携の取れた熟練のパーティだけど。
聖女を失ったことで頭に血が上り過ぎている。
ボクがモンスターなら...。
不意に三つ首のドラゴンに気配を移す。
彼は、腕を組んで静観している様子で。
なんか微笑まれたような気がした。
《ああ、ボクの狙い目が分かってるんだ、このトカゲは》
癇には障らないけど。
やや複雑だなっと。
小銃から銃声が二発――妖術師が張り巡らせてた、幾重もの魔法盾を突き抜けて。
治癒士のふたりが絶命。
妖術師も肩や胸に酷い銃創を負って重傷となる。
「なんなんだ、その、その武器は!!!」
侍の青年が抜刀とともに斬りかかってきた。
魔法小銃には銃剣仕様もある。
約1.5メートル以上の銃身と、約4kgからなる総重量のフリントロック式が一般的に、マスケットと呼ばれる火砲である。
ごくごく一般的に、だ。
ボクが召喚したものは“マジックステッキ”と呼称された、魔法を弾丸として装填して放つ武器。
ファミリアをOFFにすれば。
掃除用具の中で立て掛けてある“竹箒”そのものなんだけど。
これも通販で買った特注品であるのだ。
“竹箒”が?
ふん、OFFにしなければ意匠も立派な小銃なのだよ。
空しくなるからOFFにしないで欲しい。