- C 976話 魔女の宴に呼ばれるまでの日々 6 -
校内新聞を賑わす、春の大祭。
もちろん、その主役はパールライス子爵が末子のマル――つまり、ボクのコトだ。
学年トップの成績を誇る高嶺の花・ルージリー公爵令嬢。
八ツ橋エリザベートが、ロールプレイングの苗字であるんだけど。
マーシア王国、
タムワース王立上級学園という学校名に掛かった爵号が配られている。
学園の中で名乗るにしては厳かというか。
ちょっと聞き覚えがある言葉だ。
ブリテン島にあった、七王国の中央に件の“マーシア王国”があった。
タムワースは、同王国の王都だった地になる。
ファミリアを通して見える、校舎外。
冒険者ギルドが置かれてある納屋、再現された道具屋や防具・武具屋などの物置小屋などの雰囲気は、どことなく10世紀以前にも感じられる。ただし、ロールプレイングの王太子やエサちゃんのドレス、ボクの異装なんかは... ふむ。たぶん、12世紀以降だと思う。
10世紀前後にテーブルマナーは存在しない。
手食文化のド真ん中で。
油汚れなんか気にせず掴んで口に放りこんで、指先を幅広の襟元で拭ってた。
故に、そこはいつもテカテカだったっていう。
ばっちい、話だ。
おっと話がズレたか?
◇
本夜祭が始まるまで3日間は、拡張現実で並べられる雰囲気を味わうのではなく。
学園を挙げて“大祭”が行われる。
迷惑な7日間である。
人里離れてても、人工島。
自衛隊の演習っかって見間違われるような、火薬の使いっぷりである。
《どんぱち煩いんだよなあ》
ボクは、自分の部屋にある。
前夜祭の毒気に当てられ。
いあ、聖女の差し向けてきた魔術によって、お腹の調子がひじょうに宜しくない。
糞、嫌がらせにも限度が。
ぎゃ!!?
また、ぎゅりゅっときた。
ハナちゃんを突き飛ばしてトイレに駆け込む。
今まさに、扉の向こうで「私が先で~」と、彼女の戦死が叫ばれてて。
《っ、ごめんね。ハナちゃん、キミの献身に感謝する》
バカな芝居だと思う。
いい大人のハナちゃんは漏らした後始末してるし。
ボクはトイレから出られない。
「あー、もう!! 糞がぁー!!!!」
◆◇◆
一方、親指の爪を甘噛みする聖女の姿が、部室にあった。
「あの転入生、マジ、目立ち過ぎじゃない?! なにもんよ」
本気で噛むと、深爪で痛い思いを1年前に悟ったので、甘噛みに留めている少女だ。
彼女はまあ、所謂~。
思い通りに事が運ばないと癇癪を起す、病気持ちの子である。
えっと、精神疾患のひとつらしい。
挫折の無い人生なんて。
ありはしないんだけどね。
「ここに調査結果が!」
王太子の従者が聖女に薄いファイルを渡す。
「俺の従者を?!」
「抑えろ、従者の一人くらい彼女に差し出せ!! 俺たちの平和の為だ」
アルベルト・バッテントレルが、王太子シャルルを宥めてる。
シャルル・オスナージュは、オリバー。
ボクが堕としてしまった地雷王子の兄であり、双子の片割れでもあった。
性格的にはちょっとメンドイ。
「平和って?!」
「う、る、さ、い!! 黙れ、ち〇こが短いやつら!!!!」
互いに明後日に視線が泳ぐ。
聖女は問題児である。
これは校長から聞かされてた。
顔合わせで、彼女に無理やり剝かれた攻略対象は。
ファミリアで記録写真を撮られて、下僕にさせられている関係へ。
気の毒な話だ。
「わたしに意見が言えるのは“グレイシー・ケッツハット”侯爵令嬢だけだって。言ってなかった、かな」
グレイシー・ケッツハット。
一代限りの女侯爵ともパンフに書かれた、唯一の女性攻略対象。
百合属性も盛ってみましたってノリで、副校長の趣味だという。
あんの、バーコード禿げがっ。
ロールプレイの子は、可愛い顔の男の子で。
確か、人工島エネルギー庁の長官令息だって話だ。
「ちょ、薄い! 校長のてっぺんより薄くない?!」
マジかよ。
「それが限度です。パールライス子爵の記録は、人工島の保健相に無い扱いでして。これ以上、個人の捜索をすると藪を突きかねません」
シャルル王子の父親は、自治政府の外務大臣だ。
そこの従者、いやこの場合は令息が“司馬丸恵”という娘の素性を掘るってなると。
事件性があるんじゃないかって、警視庁が出張ってくるんだろう。
それは避けたいって...
「いいじゃん、それぐらい。警視庁にも追わせてあげなさいよ、あの女が麻薬絡みだって匂わせちゃえば、なんか素性だっけ? 勝手に掘ってくれるんじゃない」
えー。
この人、マジ、こえぇー。