- C 975話 魔女の宴に呼ばれるまでの日々 5 -
春の大祭――。
貴族学校らしいイベントと言えば、イベントだ。
2年生になった聖女と公爵令嬢ふたりは、(物語上)立場が変わり、優劣の差が生まれ始めている。
平民出身者である聖女は、地道に人脈形成に努めて周囲からの評価が高くなる。一方で公爵令嬢は、王太子の許嫁という立場に胡坐をかいた言動に、株を落としていくというテンプレだが。
今期に入っても。
1年生から状況がひとつも変化がない。
公爵令嬢ロールを買った、八ツ橋エリザベート嬢の淑女然が美し過ぎて。
周りが霞んで見えるようだと言われてる始末。
◇
当然、大祭の前夜祭でも。
エサちゃんに群がる令息らの人気は、他のご婦人方のそれとは一線を画すもので。
どっちが聖女か判らないほどの魅力なのだ。
1年生の頃は休みがちのエサちゃんは、正に高嶺の花。
儚さと、壊れ物注意めいた薄幸の美少女。
しかも、ご婦人方の他に男装の麗人からも人気が高く。
今でも隠れファンなる地道な活動家もあるって話。
ボクっすか。
ええ、この間の一件で酷い目に遭いましたとも。
休憩室でしかないエサちゃんの部屋の前で、今まさに忠犬たらんとする従者と厄介者のボク。
ふたりの一触即発のせいで。
知られんでもいい二人の秘めたる事情の暴露。
凄かったねえ。
男装仲間からは『がんばれ!!』って励まされ。
隠れファンからは『殺す、マジ殺す!』って切り刻まれた殺人予告状が、藁人形とともに入ってた。
魔法使い養成学校だから、さ。
藁人形とか、マジ、怖くね?!
呪わないでくださいよ。
マルちゃん、泣いちゃうよ。
◇
前夜祭と呼ばれるイベントは3日間行われる。
ダンスの手配などは、後夜祭の方で行われるので――この前夜祭では、それぞれの狩人たちが意中の令嬢に、己の魅力をアピールする一大決意表明の場である。ボク以外は、皆、2回目の巡り合わせなので大分勝手知ったるな、雰囲気だが。
「ルージリー公爵令嬢、エリザベートさま。我が、猛り狂う薔薇をお納めください」
深紅の薔薇を胸から抜き取ると、エサちゃんに差し出す“王太子”がある。
うむ、みんな男性は同じスタイルのようだ。
猛り狂う薔薇か。
キザだなあ。
エサちゃんも困ったように苦笑してるようだが。
なんか、視線がチクチクするんだよなあ。
「殿方から貰うのが礼儀なんだけど」
って、豊満なバストと腕の中でいっぱいの薔薇を抱えるエサちゃんが、ボクの傍にまで。
催促する淑女は、ひとつ品格を落とすのだというのだけど。
「えっと、ボクは無作法ものだけど」
薔薇の一輪も持ち合わせていない。
冒険者ギルドでそれとなく情報は集めたけど。
まさか贈る方だとは。
「でも、わたしはマルちゃんからも欲しいんだけど?」
ふむ。
可愛らしいことを言ってくれる。
妬けちゃうぞ、ボク。
「だから、一番、大きな獲物でハートを射止めて欲しいな!!」
そんな台詞を吐いた淑女は、校内史上僅かだ。
1期生の聖女と、35期生の悪役令嬢のみ。
今、歴史が。
「マジ、っすか?!」
「そそ、マジで」
エサちゃんの笑みが、なあ。
これ砂糖と間違えて、怪しい粉を運ばされた時のソレぢゃないですかー。