- C 974話 魔女の宴に呼ばれるまでの日々 4 -
ギルドからの提案。
ボクの便利なグッズの商品化計画。
第一弾は、ポーションの飴玉である。
「これ、ハイポーション以外に作れます?」
そうきたか。
このままギルドの売店に並べたとしても、需要はありそうだけども。
ポーションのアンプル以上の出荷台数は見込めないかもしれない。
また、製造コストにも影響しかねないかも。
確かに今のままでは高価すぎる。
ハイポーションなんて、欠損部位まで蘇らせてしまう回復水剤だし。
例えば、ボトル1本から数個出来たとしても、価値がちょっとだけ変わるだけ。
ボトルが金貨1枚程度だとしても。
携行のし易さで、飴玉ひとつで金貨1枚になるかもしれないってなると。
元のボトルの価値は個数分/金貨ってなるわけで。
普通に卸している魔法薬科部の混乱も招くかもしれない。
「ま、まあ。作り方は一緒なので、混ぜ込む蜂蜜なんかの質を落とせば」
質、落としちゃうの?!って声が響く。
え、え? 落とさないの。
蜂蜜などの“不純物”には薬効がないと思われてた。
いやあ~ 実は。
ポーションと同じだけの質のいいのを使ってまして。
蓋を開ければ、だ。
知らなければ、知らないでいい話なんだけど。
甘味としての楽しみは確かに減る、かも。
ちょっと甘いのど飴の如く。
◇
そうだなあ。
商品化にメドがたつまで、ざっと4日はギルドと魔法薬科部を渡り歩いた。
その間のクエスト消化が疎かになったけども。
それなりの成果には近づいて、1年で取得しなければならない単位20は、とおに越したようだ。
学年主任教諭のメールにも...
『おめでとう、授業にもろくに顔を出すことなく勝手に単位取得したのは、キミが、キ、ミ、が、はじめてだよ! パールライス子爵殿、本当に規格外な子が来て我が校も、創立以来の出来事に困惑しているところだが... これから数か月、ひと月に一回くらいは顔を出してくれるといいのだけどね?』
終始、嫌味だった。
1年で取得できる単位20のうち、普通の場合は多くて“5”を何か月も賭して勝ち得る者だという。ダンジョンの攻略から、クエストの消化、新商品の開発から販売実績なども、実のところ単位だけでみれば“1”を越えるか、否か。
ボクは、数週間で単位“28”に到達したのである。
その功績の主たるは、
ポーション・キャンディの実績となる。
ちなみに魔法薬科部に詰める1年~4年生全員にも、単位“3”が付与された。
ポーションの改良と、携行性能の飛躍的向上という技術面の支援として、ボーナスだというものだ。
これには参加学生と顧問の教諭から感謝されたなあ。
大したことしてないのに。
いや。
それが学校ってとこの“世界”なのか。
「もうすぐ、春の大祭が来るね!?」
“マタタビ”ギルド長が、唐突に語り掛けてきた。
首に巻き付いてくるとマフラーにしか見えない、胴のながい猫さんだけど。
「春の? 大祭???」
「ああ、マルちゃんは知らなかったね。――んー、簡単に言うと。意中の姫君にダンジョンにある怪物を仕留めてきて、これを捧げるという求愛のイベントだよ。まあ、単なるパフォーマンスで、クラス対抗戦や、個人戦もある遊びだね」
ほう。
単位が少ない子にとっては起死回生。
いや、一発逆転もありうるっていうイベントでもある。
優勝者には、苦手とする学科の免罪符が与えられて、単位20の足しに宛がわれるのだ。
クラス対抗戦なら、運動が苦手なエサちゃんたちの支援になりそうだし。
「ボクも一応、女の子ですけど?」
「あ、うん。男装・女装の姫君にも、献上する子がいるかも知れないね。意中の姫は、意中の殿方に無事を祈って刺繍入りのハンカチーフを渡す習わしもあるんだよ。マルちゃん、針子は得意かな?」
この“マタタビ”先輩は、他人をよく見ている傾向がある。
流石のギルド長ともいえるか。
料理は出来るけど、ボクには刺繍は無理かな。
損壊したBDUの袖や、ボタンを直すことくらいが...
せいぜいだし。