- C 973.2話 蠢くものたち -
人工島名物の人工浜辺に続々と、這い上がってくる黒光りのスーツたち。
三つ目に光るゴーグルで顔を覆い。
ぴっちりと身体のラインが浮き出た屈強な男たちだって、分かる。
そりゃ、立派なエリンギが右に、左にと首を傾げてるから。
性別なんてまるっと分かるってもんだけども。
「みなさん、早い御着きですよね?」
脱落した諸先輩方は、いませんね――って、黒豹宅急便姿のひょうきんな男が問うてた。
宅配便のワゴン車ごと浜辺に乗り上げて。
サイドドア全開で、突っ立ってる訳だが。
「黒豹はふたり一組だろ? バディは」
心底不機嫌そうに。
ゴーグルを剥ぎ取った東洋人ばりの顔立ちの者。
一見すれば、日本人にしか見えないけど。
どことなく変なイントネーションが耳に残る雰囲気がある。
「大尉のことを寄生虫みたいに罵るんで、シメておいたんで。たぶん、どこかで粗大ごみになってると思うんですよ。っすぅ~、オレ、悪い事は何もしてないっすよね?」
悪いかどうかは、彼の持つ倫理観であって。
浜辺から揚がってくる黒光りの男たちには関係ない。
まあ、それでも不都合があるか、ないかで言うと。
「大尉と八ツ橋の両家に変な噂が立たないかってとこだが。ちゃんと記憶喪失が疑われるよう、工作はしたんだよな?」
インテリヤクザばりに、銀縁の高さが低いスクエアなメガネが、キラリと光る。
ワゴン車から持ち出す箱の中に入ってたアイテムだが。
「あー、まあ。確かに、、、そうっすねえ。とりま、顎下から襟元に酒をぶちまけておいて。っ、腹の上の紙袋に入った空のウイスキー瓶を置いて来やしたけど。もう少し、ラードを溶かして頭髪に沁み込ませておいた方が良かったでしょうか?」
そこまでされたら、人生が終わりそうだ。
黒豹宅配便の島内サービスは、八ツ橋グループのいち営業部門でしかない。
数十もの別業種から運輸・運送のさらにひとつ。
個人配送のものだけど。
業績は右に横ばいと言う業績で――。
◇
八ツ橋以外だと。
六甲鉄道グループとか、七菱鉄鋼グループ。
参鬼警備保障なんてのもあって、人工島自衛隊との太いパイプで政界を沸かせたことがある。
癒着とか天下り先とか、警視庁も同グループにお世話になってるんで、強制捜査なんてガバガバのユルユルだったって話だ。7人の警視総監(経験者)がグループの取締役専務だって言うんだから、ねえ。
「みなさん、マジで細マッチョだから何着ても嫉妬しか湧きませんね」
宅配人の本音が駄々洩れる。
咳払いが聞こえたけど。
「えっと。大尉は皆さんより2、3日前に怪しい物件へ潜入調査に入ってます。えっと、たしか......マーシア王国、タムワース王立上級学園って、言ってやした」
魔法使いの養成校としてある種の有名校だけど。
どっちかと言うと、メタバースの世界での同高校の知名度は別格だ。
本物の金持ちだけが通える、親がエリートな性格の学校であること。
通う子供の我儘に、どこまで親が本気に向き合えるかも重要であるという。
「恐らく本丸だろうが、それだけに尻尾も掴ましてもらえんだろうな」
当たりはつけている。
少女の行方は未だ不明だけど、その為の兵隊の上陸なのだから。
「先ず、お前は粗大ごみにした宅配の先輩を探してこい!!」
文句は出た。
バディで動くはずのひとりが、飲んだくれてバックレてるのは不味い。
「お前の仕事だろ、しっかり全うしろ!!!!!!」