- C 972話 魔女の宴に呼ばれるまでの日々 2 -
学校に広まるなんて一瞬だよ、一瞬。
ファミリアにはSNS機能まである。
魅惑のパールライス子爵と公爵令嬢との禁断な恋だったかな。
ロール的に。
彼女には相手がいる、攻略対象者の第一王子。
つまり王太子である。
とは、別に――。
リアルでも一度、世間を騒がせたことがあるんだけど。
八ツ橋の令嬢と自治政府重鎮の令息との縁談話。
これは不発に終わってるけど。
完全に消化したわけでは無かった。
王太子は、エサちゃんを追って...
この学校に入学したと言いう噂まである。
「ないない、八ツ橋の実権はお爺ちゃんが握ってるもん。毒盛られても、斬りつけられても生きてそうなお爺ちゃんに、誰が逆らえる? マルちゃんにベタ惚れだし。あんな細いキノコじゃ、わたしの視界にすら入らないよ」
とは言ってた、エサちゃんだが。
あの子はあれで悪食だからなあ。
心配だわ。
◇
学校の噂に振り回されながら。
ギルドの応接室に今、ボクはある。
目の前には、やたら胴の長い猫があって。
値踏みしてきてる。
「単刀直入に問おう! 汝は、どうやってダンジョンを駆けあがった?!」
ん?
「足で」
殴られた。
肉球の掌が頬に当たり、こう、ぽよ~んと。
「足で」
二度目も同じ感覚で殴られ。
なんか、幸せ。
「アホか! そうじゃない。初見殺しのダンジョンをどう攻略したか問うている。――っ、例えば“オートマッピング”のアーティファクトとか、小物の魔物を寄せ付けない“魔物除けの鈴”とか。あるだろ、そういう大層なアイテムが!!!」
若干、いや、これはキレてるな。
でも、ボクから言えるのは。
「無いですね、そういうの」
殴られた。
今度は爪が出てた。
痛かった。
「ぎゃー!!! この子、やだー!!!」
胴が長い猫が奥へ消えて。
エルフの職員さんが困り顔で現れる。
「ギルド長を泣かせないでください」
ああ。
校内にある冒険者ギルドの長は、“マタタビ”という名のめっちゃ胴が長い猫だ。
受付嬢はエルフさんで、ファミリアをOFFにしても耳が横にピンと張った亜人だった。
うん?
「ファミリアのON/OFFの切り替えはナシでお願いしますね。耳長族たちはファミリアで見せている拡張現実の賜物、いあ違うな。えっとコスプレイヤーみたいなもんだって思われてます。ギルド長だって、本当は普通の猫で通ってますんでバラさないでくださいね」
いや、バラしはしないけど。
「じゃ、さっきのやり取りの確認です。どうやって攻略したんですか?」
ボクは正直にありのまま情報開示することとした。
例え、やり方が分かったところで。
「ふむ、モンスターの腸の中に潜り込んで休憩を、ですか。普通は思いつかないですし、やりたくない攻略法ですね? 貴族らしさの微塵も無いですけど、何から着想を」
原点があるのではという推理だ。
「ガキの頃にジャングルで」
こりゃ信用されないなあ。
不思議そうな表情だ。
エルフさんも顔がくしゃくしゃに歪むことがあるんだね。
これは、叩き出されるかな。