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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
211/2410

-173話 決戦 ハルスケンプの戦い ⑤-

「盾を構えよ! 傷ついた仲間は、後方へ」


「突破されても、無理に押し返すな! 分断されたら、左右に分かれて後列の横陣に任せるのだ!!」

 “貝紫色”の部隊が肉薄して、再び横陣を突き抜けると、健在な横陣が大盾を構えて聳えて待っているを繰り返している。歩兵隊の突き出す槍が、ことごとく弾かれ元の位置にまで押し返されるを繰り返す。

 ジリ貧いや、無益な消耗戦となっている。

 “貝紫色”の5千隊が大分割を食った状態になっている。

「敵を侮るな、丁寧に仕事をこなして時を待て! 反撃を突く一瞬は必ず訪れる」

 と、将帥たちは各所の兵を鼓舞して回る。

 これが、精鋭72師団の戦い方だ。

 代将不在でも、連携して動ける。

 練度の桁が違いすぎた。


「よし、今だ! 重装戦槌兵っ、前へ!!!」

 バカッと開いた大盾だけで出来た横陣に門のような穴倉が生まれると、千人単位の戦槌ウォーハンマーを担いだ全身甲冑が飛び出してきた。

 彼らは人豚族オークだ。

 全身の毛が逆立つような、不気味な雄叫びを挙げながら一心不乱に雷帝へ群がっていく。

 “貝紫色”の精神支柱が雷帝であることは、初動突撃の段階から承知していた事実だ。

 絶対防衛は、あくまでも時間稼ぎではない。

 これは、人側の要を見定めることになる。


 人豚らの力任せにぶん回す戦槌を受け、ひとり、ふたりとNPCの兵士たちが肉塊へと変化していく。

 魔物一匹の個体戦力は尋常ならざる。

 雷帝の二刀流も簡単に受け止め、不敵に嗤う。

 ぞっとする笑みだが、雷帝のうきんも気が狂ったように吠えていた。



 馬上弓を持ち出している“緋色”の騎兵は、本来3千ほどしかない。

 が、彼らは陣を引き払う前に剣騎兵や槍騎兵にも、声を掛けて突撃の構想を説いていた。

 直上から矢で襲い、注意を削いだ後に騎兵の突撃を提案し、有志のみで動く。

 5千近い兵が参加した。

 距離を測りながら、グワィネズの隊は目端で右翼の大盾を捉えている。

「弓を構えよ! 今、」

 びゅんっ、びゅんっ...

 引き絞った弦から放たれた矢弾は、風を裂きながら放物の弧を描いて、左翼と同じように展開した横陣の直上を強襲した。

 当然、二列より後方の歩兵部隊が『盾を掲げよ、味方の直上を護るのだ!!』という命令を発していたが、矢は左翼の6列より後方へ飛んでいく。

 また、同時に視界の殆どを失った左翼は、正面から強襲する騎兵の突撃に半歩の躊躇で乱れ2枚の横列が見事に粉砕された。が、突撃した騎兵も3枚を抜きかけたところで、吹き飛ばされた。

 人豚族の大暴れっぷりに馬の足が怯む。


 馬上弓の矢は、右翼後列と指揮をしていた将帥の頭上を襲った。

 対策が遅れた彼らは、3千本のシャワーを受け、堅実な盾防衛が困難になり、混乱する。


 馬群の後ろから、歩兵たちが走っている。

 隠者と魔導士隊の2千人余りと、更に5百人とか、二百人くらいに別れた冒険者部隊が続くも、それぞれは別々に走っている。最早、南に陣を敷いた連中には、後方の戦略家らの声が届いていない無法状態だ。

「はいっ! ここで火炎球ファイアボールです」

 と、隠者の号令で魔法剣士たちが、各々の判断で火炎球を投じて、左翼に空いた大穴に向かって魔法攻撃を始めている。ただし、その穴は騎兵突撃によって作られたものであり、逃げ遅れている友軍が存在した。

「誰ですか?! 氷衝撃弾アイスボルトなんか投げてるのは!!」

 隠者が魔導士隊に身体を捻って、怒鳴りつけている。

 彼女の視界に飛び込んできたのは、出発前に組み分けをした農民の子だ。

「あ、あなたは水属性の!?」


「えっへ~」


「何のために、組み分けしたか分かってますか?」

 魔導士隊は、そのまま横陣に張り付いて戦い始めている。

 隠者の号令や指揮などを得ず、取り付いたら人豚族の排除を優先的に行い、盾兵は別働の部隊が襲撃しているという流れになっていた。

「あ、だって...寂しいじゃん」


「え?」


「――水属性、ボク一人だし...えっと、戦場のど真ん中で悪目立ちって死亡フラグっていうか」


「囮くらい...自ら買ってでるくらいの気概を見せて欲しかったですよ?」

 ふたりの問答が一番、戦場で孤立していた。

 72師団の中央軍から矢が降り注がれた。

 目標は、魔法使いのふたりだ。

高位魔法城壁グレーター・ランパート!!」

 マルが長たらしい詠唱を唱え終えると、ふたりの周囲に七色に輝く、城壁のイメージが浮かびあがった。

 魔法攻撃や、物理攻撃から身を護る防御魔法。

 覚えておくと損はないという代物だ。

「見事な城壁ですね」

 隠者は感嘆する。

 と、同時に嘆かわしいと詰ってきた。

「その実力があるなら、私の背中に隠れず堂々と、囮に成りなさい!!」

 案外、酷いことをいう女性だ。

 マルと同一のボクッ娘であるのにその、性格は悪意に満ちている。

 いや、あちらの世界の隠者はもっと悪党だった。

 あの頃の隠者は、もう少し歳がいっていたような気がするが――。

「えー」


「えーじゃない。子供じゃないんだから!」

 ローブ越しのマルがきょろきょろし始めている。

 目の前の隠者も止まっていた。


 戦場から音が消えたような気がする。

 金属の擦れる音や、雄叫び、怒号、いや、鳥の声すらどこへ。

 隠者の口がパクパク動いているけど、何も聞こえない。

 全くの静寂と、思った瞬間に肉を裂き、全身の毛穴から体液が噴出さんばかりの衝撃が走る。

 大気が震えている、空が曇天に覆われている。

「な、何が?!」

 隠者が空を見て、立ち呆けていた。


「黒い、う...渦?!」

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