- C 967.7話 ふたりめのボクが、今 -
寮母さんから電話が来ていると、ボクに受話器が渡ったまでは記憶がある。
部屋に戻って――から、が分からない。
何があって、どうなって。
いや、ひとつ。
そう、ひとつ。
鏡の前で、鏡のボクの頬をそっと包み込むボクと対峙して、だ。
『鼻血が出ている、暫くコクーンに戻って無かったから、必要な休息が取れてなかったんだろう。今は気にすることは無い。すべてはボクに任せろ、司馬丸恵がまるっと片づけてやろう』
そんな声を聴いた気がする。
◆
親指を甘噛みしている、マルを目撃した。
しかも、素っ裸で寮上階の自室から学園を見渡すように突っ立ている。
張華、緊張の朝だ。
「えっと、まだ1月だし。部屋の中とは言え...寒い、んじゃ、ないかな?」
義妹に恐る恐る声を掛けるなんて何年ぶりだろ。
マルが中学、卒業する前に海外へ飛ぶその一寸、彼女が怖いと思った頃か。
その時もやっぱり奇抜な、いや奇行に走ってたきがする。
「ハナちゃんか」
「は、はい...ハナです」
彼女は肩を揺らして微笑みつつ、ベッドへ。
「盛大に絵画を描いてしまったんで。こうやって風呂に入るか、或いは濡れたタオルで拭くか、風乾で誤魔化すか思案してたんだが。ハナちゃんなら、どっちがいい?!」
わたしの視線がベッドに刺さる。
シーツの上に見事な絵画が。
力作だってのは分かる。
おねしょで、描けるもんじゃないけど、おねしょだ。
それを隠すことなく笑い飛ばす、義妹。
「題材は、昼間みたキノコの山」
上手いこと言ったつもりだろうが、むっつりじゃねえか。
ま、マルがひとりでヤってるとこなんか見たことねえし。
部屋掃除しても、BL本ひとつ出やしねえ。
わたしの汚部屋から“おかず”を与えようとしたら、顔真っ赤で拒否ってきたからなあ。
まさか、いや、それでこの絵画だと?!
「いあ、ハナちゃんが思ってるような流れじゃあ、ないんだが。やっぱり昨日の昼間がな、お花畑で育ってきたあたしらには、スパッツみたいなもんで隠しきれない“竿”を見せられたら、脳裏に焼き付く。おかげで、ほら! うちの純朴天使なマルちゃんが大作創ってしまったよ」
マルが?
いや疑った耳と、今見ている義妹のふてぶてしさ。
この子、違う子だ。
「やあ、ようやくかい」
◆
ハナ姉を義姉と慕うボクは、休憩中だ。
刺激が強すぎて、いや、この先の仕事に支障が出るから、ボクが呼び出された。
司馬丸恵、オリジナルの登場だ。