- C 966話 攻略対象に喧嘩を売る 1 -
この学園のどこかに聖女と呼ばれる乙女がいる。
間違いなく居ると、副校長は教えてくれたけど。
まさか、ボクから台風の目になるとは微塵にも思っていなかったからか。
或いは2年も経過していれば、だ。
勝手に輝くものだと思ってたのか。
詳細を教えてはくれなかった。
担任の役小角女性教諭が煽らなければ、だ。
ボクはボクの仕事に専念できたと思うんだよ。
まさか、こんなトコで。
攻略対象に喧嘩を売ったり、買ったりもしなかったと。
「異国の子爵がどれほどの者か!!!」
ああ、完全に怒髪天だな。
副校長からは冷静沈着だと聞かされてたけど。
王太子は、顔の前に突き立てたレイピアを、フェンシングのように前方に突きだしてきた。
合図もないし。
ボクはその切っ先を鞘で弾いてた。
王子を前にして抜刀するのも大人げないと思うし。
ボク、一応、モブだし。
黒山の中からエサちゃんだけを見つけ出しているんで。
彼女にいい格好を見せたいと思えば。
たぶん、まだ他に幾らでも機会がありそうだし。
「舐めた真似を!」
いやあ、どうも声の大きな王太子だ。
◇
レイピアは、刺突剣の代表みたいなもの。
本来は完全防具の騎士に対して、関節などの守備力の弱いところに鎧通しのように突き刺して。
致命傷を得る武器だったけど。
切りつけるとか、そう言うのには向かない。
19世紀ころにスポーツとして盛んにフランスで行われた、フェンシングの主要武器として使われ。
貴族の嗜みとして目撃されるようになる。
それ以前では実は。
あんまり実用的じゃなかったんだよね。
ルール上、直線的に突き攻撃の応酬をし合うなら、ボクに勝ち目はない。
けど、これ私闘なのよね。
突進してきた王太子の軸足を払って突き飛ばす。
いやあ、実に簡単な所作だよ。
ボクの方はサイドステップで、左右どちらにでも回避すればいいんだ。
姿勢が崩れた王子の顔に、鞘の先を向けて終了。
「1本、それまで!!」
女性教諭の“やめ”が叫ばれた。
面白くないのは王太子じゃなくて、BIG4の外野たち。
「今のは、反則じゃないのか!!!」
なにが?
「止めを刺さなかった、ですか?」
教師の言葉とも思えませんが。
耳は疑ったフリはした。
が、BIG4も、ボクもそうじゃない事は分かってる。
首を傾げつつ、
「何が不満なんです」
煽らなくてもいいのに煽っちゃった。
ちょっとムカついてるんで、つい。
「ルールから、完全に逸脱している」
「お前も貴族なら、貴族らしく」
はあ~生ぬるい、ガキどもめ。
「ボクの国では、抜刀したら命のやり取りを宣言したものと同義になります。つまり、戦争ですよ...と言えば、大方の予想は付きますよね?! 戦争であればサシの勝負においてルール無用の騙し合いは勿論、命の取り合いに水が差される事なんて、ない!!!!」
最後はちょっと強く言ってみた。
生ぬるかったので。
ま、これが決定的だったな。
売れない喧嘩を安値で売ってしまったんだわ。
で、BIG4はそれを買った。
あちゃー。