- C 961話 初期イベント処理中です1 -
ボクが手に入れたロールは、
子爵令息である。
お爺さんにケチられたわけじゃなく。
実の孫であるエサちゃん以上に積んでくれた編入額と、寄付金。
校長と副校長が手揉みしながら、今シーズン最大の寄付金でしたって明かしてくれるほどに、だ。
が、そのあとで。
副校長が申し訳なさそうに震えた声で。
「枠がない?!」
侍女に扮するハナ姉の声。
相変わらず大きな声だけど。
「各配役に影響がない爵号なんですけど?」
「は、はい」
「どうでしょう、子爵と男爵、准男爵があります」
お遊びの配役だから追加で公爵とか、あるいは伯爵が創出されても問題はないように思うけど。
配役取得の条件として、学校側では寄付金額の上位から早い者勝ちを採用している。
しょうもないルールに思うけど。
そもそも特科生徒のシーズン枠には上限がある。
そこへ無理やりねじ込んで貰った手前、しょうもないルールでも。
「わかりました、子爵でお願いします」
聞き分けのいい少女を演じなければ。
駄々をこねて悪目立ちもよくない。
◇
学び舎はみっつの棟に分かれている。
一般生徒たちは、よっつ目の棟へ誘導されてるけど。
伝統的な学び舎だと、副校長は教えてくれた。
が、
ここ人工島は建造からまだ半世紀しか経っていないんだけどね。
古びた城のような外観の学び舎も。
特殊な塗料でアレンジされてるだけだよね?
とは口が裂けても、だ。
半世紀しか経っていないのは人工島で。
この貴族風の寄宿学校自体は、どうも海外にあったとか...
ないとか。
ARとかVRが普及したのが1世紀弱。
フルダイブ型が浸透したのも1世紀弱。
ここの近代魔法使い養成ってのも、上記の技術を利用した“可能性の追求”めいたものである。
とんがり帽子にえらく鍔の長く広い帽子を被り、
いかにも現代の魔女然とした風貌の三十路な女性教諭が、ボクを測定室ってとこに導いた。この部屋は、入学式を終えたピチピチの1年生が列をなして廊下まで並び、期待に胸を膨らませながら挑む最初のステージである。
ま、ボクの方は。
億劫そうな表情で、猫背。
かつてないほどの面倒臭そうな生徒を演じてた。
初日こそは『こんな素敵な学び舎で学べるなんて!!!』と、感激して見せたけど。
正直に言えばがっこなんて通いたくもない。
「この水晶に手をかざしてみてください」
女性教諭のススメ。
水晶玉は首根のファミリアから通してみれば、如何にもってな雰囲気の神秘性を帯びているけど。
ファミリアをOFFにすると、たんなるガラス玉にしか見えない。
「――えー」
本音を言えば、何を期待しているのかが推測できる。
副校長からの言葉をそのまま展開すると。
この学校では拡張現実を通して、生徒は配役にあったアバターで生活している。
授業はクエストを解決することで単位の取得が可能で。
ロールプレイングに徹して、自身の道を切り開いていくのが卒業までの課題であると。
これを聞いて一気にやる気を失った。
チュートリアルクエストを取り溢すことなくやり遂げると、ランダムのボーナスクエストが発生する。
これは最後までやり遂げた者が知り得る情報。
つまり、入学が決まったその時からクエストが解放されてるんで。
やる気のある生徒しか気が付かない。
「さあ、さあ、水晶に手を!!」
なんか面倒なので翳した。
ファミリアはONで――ガラス玉が派手に砕ける演出。
いらねー。