- C 959話 人工島の貴族学校 序幕4 -
人工島の貴族風全寮制私立学校といえば、近年までお嬢様学校だったところだ。
表向きは宝塚のような品格と才覚に溢れた、淑女を世に送り出すなどの名目が先行してたけど。
裏向きは金と権力、権威の使い方について学ばせてたとも言われている。
そんなのが男女の垣根なく門戸を開いたのは風潮なのだろう。
時勢というか、あるいはぶっちゃけると...。
百合の園ばかりでは経営が立ち行かなくなった、まあ、そんな経済のお話。
ダメだ。
ロマンの欠片もない。
ボクが人工島の子供だったとしても。
こんな学校に通うことはないだろう。
ぶっちゃけ司馬家には金がない。
実母は失踪。
叔母の十恵ちゃんが姪であるボクの下着を売って生計を立てて。
ま、まあ。
そんなこんなで、身分詐称できているともいえる。
エサちゃんの実家に囲ってもらえてないと。
たぶん路頭に迷うんだと思う。
◇
様々な雑事、十恵ちゃんのいう。
面倒なこともすべて、八ツ橋家が肩代わりに動いてくれた。
ま、そこには当然のように彼らの一族から冷ややかな視線が向けられて――『いい身分だな、この厄介者どもめ!! 少しは遠慮というものを覚えるがいい』なんてやっかみもあった。
この意地悪な声がエサちゃんのでなければ、耐えられる。
八ッ橋が現当主のお爺さんも。
ボクに実の孫以上の信頼めいたものを寄せてくれてて。
ま、そいうのも機微に感じ取れるのが一族というもので。
当然、風当たりは強いわけで。
「さて、と」
柏手でも打つように、十恵ちゃんが口の前で合掌。
瞼は閉じたまま。
「準備は整ったけど、エサちゃんのコミュニティにあった娘が失踪。あの回り道的な環境よりも、ストレートにそう表現したほうがいいわよね?」
ボクは頷く。
メイド服に袖を通したハナ姉は、上機嫌で鏡の前にある。
玄関にある全身が映る巨大な鏡の前に。
「ハナ姉は呼ばなくていいの?」
「アレは、車中での一件でも...。殆ど耳に入っていないのだから、この際、ほっときましょう。VRの世界であれば、聞き逃した情報でもアーカイブを辿れば経験したと同じような追体験が受けられる。便利な機能だけども、頼りすぎると聞く力が衰えてしまう」
情報を整理すると。
失踪した少女の捜索がエサちゃんからの依頼になる。
この状況下での大きな制約は一つ。
エサちゃんからのバックアップは受けられないということ。
頼みごとをしてきた張本人であるんだけど。
彼女にも立場というものがある。
貴族風の全寮制学校にはロールプレイという校風があった。
伝統だっていうんだけど。
この島、半世紀しか歴史ないんだけど?
エサちゃん曰く。
王子さまと攻略対象の取り巻きBIG4。
公爵令嬢と聖女さまって括り方だが。
如何にも~すぎる。
「援護が受けられないのが、エサちゃんことエリザベート令嬢が“悪役令嬢”だってこと、だから?」
十恵ちゃんも呆れたようにうなづいてた。
それが何のロールプレイなのかは分かってる。
令和の数年で流行した『悪役令嬢もの』っていうサブカルだ。
ちょい昔までは、女学院だったから。
宝塚歌劇団張りに。
女の子が男役を配して、萌え上がったって記録が。
エサちゃんも其処は憧れてたらしく。
男装させられたボクはたぶん、その妄想のとばっちりを受けたのだろう。