- C 956話 人工島の貴族学校 序幕1 -
さて、人工島にも新年が訪れた。
ただ島が太平洋を彷徨ってたんで、予定航路から外れて日付変更線を跨いだ結果――。
2回目の1月1日を迎えた。
アホだ。
元旦を2回も祝う事がではなく。
日付変更線を跨げば、休みが1日伸びるぞ!と思った連中がだ。
人工島は台風や嵐から逃げれる事が出来るよう設計された、“客船”でもある。
巡航9ノット、全力で20ノットは出せるけど。
事実を知った自治政府から怒られたって話。
同じ棟にいる“航海庁”の職員さんが、苦笑交じりに教えてくれた。
結局、1月2日がカレンダーから消えて、だ。
1月3日から数え直されている。
な、アホだろ。
職員さんも。
「アホだよなあ、1月2日の日勤と夜勤シフトの連中。休日手当てが飛んじゃって(両肩を竦めて、手持ちのコップ酒を煽る)、激怒も激怒、散々だったよ。結果的にヤらかしの俺らが後でおごる話になったんだから」
なんて打ち明けてくれた。
ボクも付き合って、梅酒を呑んでる。
ハナ姉は完全に下戸。
呑むと酔うのに、何故か呑む――意味わかんない。
ボクは呑める。
いや、結構イケる方。
「マルちゃんは最近、見なかったけど?」
航海庁に務める職員さんは、妻帯者だけど。
ぶらぶらしてるっぽいボクに、唯一、構ってくれる大人のひとり。
「あ、あ~うん」
「院生の?」
嘘じゃないけど、正解でもない。
酔ったフリしながらちょいちょい誤魔化し、赤道直下の星空を見る。
ったく、季節感ないなあ。
「それ、バイトとしてはどう?」
おやおや、財布、やばいんすか。
職員さんから、二人目がデキたって話を聞かされて。
女の子らしくボクも、なになにって聞き返しちゃって。
ま、
ハナ姉がコンビニから戻ってくるまでの良い繋ぎには成った。
「がっこ、行って青春しろよ~」
な~んて。
職員さんは両腕を擦りながら部屋へ駈け込んでいった。
◇
ハナ姉の姿は――
ボッサボサな頭に、なんかちっと脂ぎってる感じで。
目ヤニが見え、いや、擦ると角膜が傷つきそうな塊が。
お気に入りの革ジャンにスリムジーンズ、尻の形がはっきりわかるエロい服だ。
バイト中も絶対、尻見られてる筈なのに。
彼女に男の気配が何もない。
ま、身体はいいんだが。
もう少し小奇麗に、だなあ。
何処、洗ってんだよ...この人。
「そっだ、」
コンビニの破棄処分にされたお弁当がハナ姉の下にある。
貰ってきたという。
ちゃんと食えよ?
「(柏手打ったから、弁当が手首の下で跳ねて...)エサちゃんがコンビニに来てね、マルちゃんにラブコール? ん、違ったSOSかな、発信していった」
ほう。
その弁当は袋の中でバラバラ事件になったけどな。
エサ子がコンビニに?!
差し迫った何かでも。
いや、それならメール。
「マルちゃんにブロックされてて、通知が戻って」
ごめ~ん、忘れてた。
コクーンの演算処理にすべてを注ぎ込んでるから、うちのシステム死んでるわ。
「ま、いいから。寒いし、明日にしよう!」
その時は、そう思ったんだけど。
もっと早くあの子と接触すればよかった。