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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
陽炎戦記
2093/2359

- C 955話 ブラックアウト、そして始まる 5 -

 管理者に成りたかった男がいる。

 募集している窓口は永遠無休に開いてるんだけど、採用人数は公開も公表もしていない。

 そのシーズンは採用がゼロかもしれないし、ひとり、ふたり... ちょっと多くて複数かも。

 男は応募し続けた。


 この仕事を知ってからは、特に希望した部署として応募した。

 だが叶わなかった。

 彼の通信受けに入る通知メールは決まって『不採用』。

 理由はない。

 いや、

 “誠に申し訳ありませんが、採用を見送らせていただきます”

 なんだろ?

 一応、書類選考はいった?

 何処まで審査された?



 疑問は浮かび。

 消えて、

 浮かんで、モヤっとした。


 男は、世界の美しさを知っている。

 人工的に作られた地球環境モデルのNPCとして。

 AIの良き誘導者りんじんとして、プログラムに貢献してた。

 部下ひとりも居ない暗い個室の主人として。

 肩書は主任で、給料もそこそこいい。



 どこで道を違えたのか。

 やる気が狂気に変わるのは一瞬だった。

 そこに、()()が接触してきたわけだ。

 天地創造直後の世界は、濃厚なマナに覆われている。

 そんなリソースを糧に動植物の祖が産みだされていくので――魔法小銃マジックステッキ基礎術式メカニズムを起動させると、当然、手元が爆発する。酸素が充満した箱の中に、火種を放り込むようなことだが。

 燃焼実験でやったことは無いだろうか。

 寧正の右手がぐちゃぐちゃに壊れた。

 彼のいた世界でなら致命的な怪我。

 だが。


 寄り添う天使がそっと撫でる。

 痛みが無くなり手が元に戻った。

『奇跡だと崇めてくれていいぞ? 蟲ども』

 天使長の言葉がはっきりと刻まれる。

 苦痛は伴うけど、電子音じゃない声が聞こえた。



 ウナちゃんに呼び出されて、管理棟へ訪れたボクらは。

 短髪、ベリーショートのヘアカットが成された、茶髪の女の子が待ってた。

 部屋の中央にあって。

 ボクらとは強化ガラスを隔てた違いだけのある部屋で、だ。

「何、これ? 何かの拷問??」

 短髪の子を指して。

 ボクとの違いについてウナちゃんに問う。

「いや、彼女の希望だよ。あの中は、クリーンルームなんだ。埃とか細菌の類がいないし、彼女の身体がこちらに適応できないから――」

 知り合いにもいた。

 あの子は医療ポッドから出ることも叶わない。

 だから...

 代わりに遠隔操作のペッ〇ー君があって。

「これはどう言う?」

 聖櫃のみなさんの所在は不明だったから、参加してないけど。

 エサ子とハナ姉、十恵おねえさんはもうセットだ。

 仮にボクにだけに話が通ってても、彼女三人は集まってくるだろう。

 そんな関係。

『――ぶっちゃけると、後日談やなあ』

 スピーカーから聞こえた声も。

 ボクと大差ない。

 隔たりがなければ、一緒にがっこ。

 通ってたかもな隣人みたいな感覚。

『おお、そういう考えは嬉しい。あんがとね、マルちゃん... マルちゃんでいいよね?!』

 名前の知らない子から、フレンドリーに扱われる。

 不思議なことに。

 これが悪い気が興らないというか。

 なんか、心地いい。

「マルちゃんでいいよ」


『ほなな、私は乙女神や』

 不思議なことだけど。

 いくつもの世界を管理する子らには、とにかく()()というものがあるらしい。

 それぞれに年齢差があって。

 性別もバラバラなんだけど。

 何故か共通する資質だけは同じだという。




 そして、ボクたち。

 ボクたちと彼女は非常に気が合うという()()で。

 何をやっても、彼女の管理する世界に引き寄せられてしまう傾向があった。

『そこで、目の届きにくい世界のお掃除を、ね。マルちゃんたちに... まあ、遠回しにだけどもお願いしようって話に。でも、最初に...ぢゃないか。えっと、謝罪します。ごめんなさい、あなた方を巻き込んでリセットボタン、押しました』

 唐突にシグナルが切れると、暫くは無を感じる。

 こう、感覚の向こう側。

 魂みたいな精神世界で、だ。

 それから徐々に自分を再認識するようになる。


 ざっくりした感覚で繋がってた気がしたけど。

 あれは怖かった。

 生理的な現象で。

 稀に涙を流して、失禁してることがある。

 あの真っ暗な体験があるからだ。

『精神的なトラウマがあるなら早めの受診を。乙女神とは言っても、権能で心の傷までは癒せないの。ただ、私からは祈ってあげる事しか出来なくて』


「まあ、期待はしてない。後日談を」

 ドライなハナ姉も手の震えは隠せない。

 エサちゃんだって似た症状があるっぽいし。

 みんなトラウマを抱えた、かな。

『そう、そっか。そうだね、知りたいか... 後味は悪い方だけど』

 男は管理者に成りたかった。

 幾度にも渡って自分をアピールしたけど、その都度、精神異常で却下された。

 世界の移り変わりを見守るのが管理者の仕事で。

 天地創造なんて。


 本当にただの作業でしかない。

 原始的なAIを配置して、箱庭の中のAがVに恋をして結婚。

 VからHとDが産まれて。

 そのいずれかがゲイだったりする。

 そんなAIたちの生涯を温かく見守るのが仕事なのだ。

「ちょっと待って、待って!!」


『はい? 何か』

 頭の上の触覚めいた2本のアホ毛が動く。

 これから物語を閉じようとしてたからなんだけど。

「神さまってのは、ベビーカメラで赤ちゃんの寝姿を見守ってる、親みたいな感覚なの?」

 エサ子がらしくもない表現で問う。

 エサちゃん、どうした?

 欲しく、

「マルちゃんは、ハナ姉のトコでハウス!」


「はい」


『ま、ですね。何もしませんよ? その真意を詠むなら、本当に何もしません。雷鳴は自然現象ですし、落雷も、私が此処に落とそうって選んでるのではないので。天地創造以降は干渉しません...だから、彼もそういう精神構造であったならば、仮にですけど採用されたかもしれないんです。ただ、壊れてたんですよ、AIの中からソロモン王のような偉人が出る瞬間が合ったら、摘んじゃう人でしたから。また、管理エリアのリソースで自分の為の庭を造ってた人は、俗世で横領と言うのではないですか?』

 っ、確かに。

 それはダメだ。

『――横領は犯罪ですし、そもそもサイコパスな精神状況で“命”宿る世界を預けたい人なんて、誰も居ませんよね。見守るのが仕事であるのに干渉しちゃうような人は、まあ、論外なんですけど。で、排除されました... サイコパスも使いようって方針が見直されるようです』

 社の方針か。

 或いは管理者かみさまの方針か。

 何れも、ボクらには。





『最後に、愉しめましたか?』

 ふん。

 乙女神の子供っぽい微笑みには抗えないなあ。

「楽しい時間をありがとう」

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