- C 953話 ブラックアウト、そして始まる 3 -
汚女神の祈りにより、混沌とした世界に光が生まれる。
眩しかったから雲を創って、雨を降らせ。
右手の中にある種を植えたいので、一握りの土から大地の創生を行う――。
ハイファンタジー・オンラインにおける“天地創造”の序文。
汚女神は卓の下で胡坐をかきながら淡々と、軽快にマウスのクリック音を奏でてた。
こう、カチカチチッ。
それはとても単純な仕事で、退屈な作業なんだ。
ただ。空虚に開いているマスを埋めるだけのもの。
そこには何も。
浪漫なにもあったもんじゃないけど――。
ひとつ、
絶対に外せないものが。
完成予想図がしっかりあるんで、予想図からの逸脱はボーナス査定に響く。
この間も、調子に乗って予想図にない島を付け加えたら、バタフライ効果とでも言うのだろうか。AIたちの行動が一時制御不能になるまで活気づき、結果、リセットせざる得ない大混乱となった。
環境変化に伴う、社会実験がテーマなので。
唐突に出現した火山島なら問題はない。
興味本位で近づくバカは、あるあるだから。
そう言うのは予想の範囲と言う。
楽園みたいな島の出現。
すでに草木も島限定の特性を持った貴重種で。
小動物やらなにまでの生物すべても。
ああ、あれだ。
絶滅したと思った、ドラゴンが小型化して。
島のあちこちに社会性をもって棲息してたら大発見ではないだろうか。
汚女神が用意したドラゴンは、人語を理解して会話に参加もする知性体で。
これが目を惹かないはずはない。
十恵ちゃんは自前のサーバーで箱庭を楽しんだ分。
そこそこの良識が合った。
この汚女神は、会社の備品で遊んだ。
そこはかなり差があると思うし、ダメな社会人だと思う。
◇
「よし、これで1万年分戻った筈」
原始的な世界が再登場する。
旧時代文明が、終末戦争によってひとつの時代を終わらせた日から千年後。
各地に遺した爪痕は生々しく残り。
大地はひび割れ、地球は常に悲鳴を上げている状況。
火山地帯が多くて全体的に暖かい傾向の気候。
住みやすいってより、二酸化炭素が多くね?だ。
『パーテーションですが?』
汚女神のヘッドセットから天使長の電子音が聞こえる。
偶にジジとかジージジ、ピーガガガッなんて例のFAXみたいな音があるんだけど。
これは汚女神が面白そうで付け加えたギミックなんだが。
最近飽きてきて、無視してる。
「世界の壁かあ、領域を小さくしてくれやがった子らだな?(まあ、いうて何百テラバイトもの容量の1テラバイトもない小さな、小さな箱庭の事。目くじら立てることもない)あー、でもないかー」
整髪して貰えた頭を無造作に、搔き毟ったトコ。
思い出したんだな。
会社の備品で遊んだことを。
廃棄物の再利用で表彰された子もいた。
それにあやかって。
ではないけど、要らんことした子は後を絶たず。
そんで給料が飛びかけたのは、汚女神だった。
「やべえよ、ソレ、バレない筈ねえよな?」
リセットした理由は必ず聞かれる。
業務評価に含まれるから。
故に管理領域の査定で見つかるって構図なんだけど。
『こじ開けます?』
今更だろう。
新規で汲み上げた世界に不具合が出る。
「いや、いい。干渉されないよう... 監視を頼む」
たぶん、いや、間違いなくだ。
干渉してくるだろう。
そのためのパニックルームの筈だから。