- C 952話 ブラックアウト、そして始まる 2 -
城州王の下にはもう一人、鬼才が囲われてた。
ひとりが魔女の系譜に連なる、防護服の錬金術師であれば。
もうひとりの天才は、ハイエルフの末裔だと名乗った。
古代魔法への造詣が深い最後の生き残り。
まあ、そんな風に城州王には告白した。
で、そのエルフが担当するのは。
空間魔法による任意拡張型の隔離世界を作り上げることだ。
現代までに発掘される遺物の中には、これと似た形式のものがあるんだけど。
それが冒険者必須のマジックボックス。
名称はギルドによってさまざまだけど。
たぶん、見たことがあると思う。
肩から提げるものや、腰のポーチまで。
外見からではどうやっても入りそうにないものまでが、簡単に収納できるアホみたいなバッグがあるだろう。その皮革製を総称して“マジックボックス”と呼ぶのだ。
が、それでも無限ではない。
一応、上限があって。
256個まで。
使い切ったものは少ないだろうけど。
おっと。
そこの人、不思議がってますねえ。
なぜ、上限が256なのか。
こいつは容量なんですよ。
サイズ...
1アイテムに割かれたデーターサイズが約50キロバイト。
効果とか解説とか、あとアイコンの絵柄などが含まれて。
スタックされても1アイテムのサイズは同じなので、256個までしか収納できなかった。
ポーションと金属の槍が、同じ大きさに気づいた人も居たかもなあ。
ふん、
ボクの皮肉を交えれば。
ポーションどんだけ重いんだよ、て。
さて、こんなんでも空間魔法の産物なんだけど。
極めて一般的でとても多く出土した。
術式が理解できても同じものが創れるかは、マイスター称号を持つ魔法使いの運次第だろう。
が、これよりも大きなものだと。
貴族や王族で利用される“マジック・チェスト”かな。
こっちはリソースが赦すだけ収納することが出来る。
ただし。
沢山突っ込むと、何処に何を終い込んだのか分からず。
ただのゴミが溜まるので。
何百年も放っておくと、管理者がこっそりデフラグしちゃってたりする。
ほら、なんか思い出してチェストの中身を探そうと思う時に限って、どこかに消えてる。
アレが。
デフラグされた後。
そんな領域をハイエルフが『俺ならデキる』と豪語したところから始まった。
そうだなあ、先ず結果を語ろうか。
こいつヤりやがった。
ただし、管理者の目を盗みながらの実験的なもので。
ストレージの1割に出来る“システム領域”みたいなサイズしか確保できなかった。
転移門から飛べば、箱庭のような小さな世界が広がってる。
「この青空は?」
寧恬が問うた。
「密度の違うリアルな空ですよ。リサイズされた新しい世界が収納されていますが、影法師のような人も動物も植物も、あるけど空虚かも。そうですねえ、この世界の人々は似せた者でしかないので。生活しているようにみえて、自由に考え行動している訳ではないのです」
寧恬は、首を傾げたけど。
父・城州王へ振り返って指示を待つ。
「お前に移住計画の指揮を任せる」