- C 951話 ブラックアウト、そして始まる 1 -
先ず、起きた結果だけを素直に伝えよう。
ボクらは勝てなかった。
誰にも。
いや、何者にもだ。
無念だ。
今まで、何かしらの成果を収めてきた自負があって。
今回も調査から始まって、色んな事に巻き込まれ――そして、なにも成し遂げることが出来なかった。
「くそー」
コクーンって命名された、ナノジェルの海に浸かったまま。
ずっと真っ暗な世界に閉じ込められてた。
んーと、30分? あれ、60分かな。
兎に角、ずっとだ。
ボクは、皆がコクーンから出るよりも先に無機質な部屋を出た。
今の姿は――。
ウェットスーツがぴっちり身体に巻き付いた感じで。
余計な凹凸を余計にも強調してみせてくれる。
軽くシャワーを浴びつつ。
湯気に雲った鏡を腕で拭って、睨んでた。
ボクのリアルな姿。
華奢だ。
年齢的ならば女子高生であるんだけど。
まったくそんな外見じゃない。
「アバターはらしく見せても、現実がこれじゃあ」
言うて中学生みたいなミニマムさ。
これで丸みでもあれば。
マルちゃんではなく、チビちゃんだ。
◇
いや。いい。
自虐もそこまでだ。
ブラックアウトの原因は、接続させてたサーバーから、シグナルだけ強制ログアウトさせられた。
丁度、リセットボタンが押される直前だった。
これは管理者からの配慮だと思われる。
いあ、配慮と言うか。
お願いが届いたのかもしれない。
『あだっ!!!』
ハナ姉の悲鳴が聞こえた。
真っ暗な居室の自分のコクーンに足でもぶつけたのだろう。
悲鳴と共に、なんか壁に投げつけたような音がした。
「マルー? マル―??!」
探してる、探してる。
で、何かを踏んで悲鳴が上がる。
いい加減、部屋を片付けて欲しい。
アバターでの彼女は整理整頓が出来る、立派なお姉ちゃんである。
姉御肌で、頼り甲斐があり、しっかりしたイメージ。
う~ん。
イメージなんて怖いものはないね。
そんなのを演じて酔ってる人も。
「シャワー浴びてるぅ~」
ボクのひとり暮らしのアパートに。
ハナ姉が転がり込み、例の如く半分ニートで居座った。
十恵ちゃんも狭い部屋なのに引っ越ししてきて、大事な稼ぎ頭なんだけど。
あの人は未だ、寝る気だな。
『ぎゃっん!!!』
また悲鳴だ。
今度は何を踏んだんだよ。
この分だと、自分の部屋から出られんな。
そんな、ほのぼのとした日常が戻ってきたわけで――。
◆
暗闇の中に白く光る“点”が浮かぶ。
復活した天使長だ。
おいおいだけど、複数の“点”もぽつぽつと浮かびだす。
まるで蛍ような幻想的だが。
ここは何もなくなった虚無の空間だ。
「記録容量に誤差が生じています!!」
神に告げる天使長。
雷のような電気が奔って、天使長が燃えた。
嬉しそうに『あっああ~』甘美で上ずった声を発してた。
おお、変態だよ、コレ。
「パーテーションが生じてるようです」
浮かぶ点からの報告。
その報告を天使長が神に告げて、再び燃やされた。
「――ったく面倒な連中だねえ」
汚女神の爪切り音が虚空に響いてた。