- C 949話 終末を告げるチャルメラの音 4 -
城州王に自殺願望がある事は、魔術師が真っ先に気が付いたのだという。
いや、その気配を利用したと言っていい。
「バカだねえ、あんたは!!」
不平等に苦しんでる人々の救済が、最初の目的だった。
聖櫃の中での信条の話だ。
これも大本は実験の一環だったというのだけど、誰の?
「一恵さんの依頼だよ」
一恵、ボクのママンだ。
司馬一恵、十恵ちゃんの双子の姉で、ボクら3人並ぶと姉妹ですか?って尋ねられる魔女。
今は島の外に居るって話だが。
どういうご関係ですか。
モルゴースさん...。
「一恵さんとはきゅうり...いや、旧知」
かっぱ?
「いや、噛んだだけだ」
そこ掘るなって頭撫でられた。
小さい子をあやす様な雰囲気で、だ。
まあ、そうされて悪い気は起こらないな。
ボクも小さいときに遭ったことある?
聞き返すのが怖いなあって時はあると思う。
我が家は人付き合いが上手い方ではないと思う。
宗家だって言われて、四つの親戚筋が常に守っている旧家。
なんか歴史のある家らしいけども。
そんなの人工島には関係ない。
「しかし、自殺願望か。ひとりでは死ぬのが寂しいから、他者を巻き添えにするって言うのは。笛吹男の童話にある心理だよね」
「厄介なこと?」
ボクが自分ちについて迷走してたら。
モルゴースさんは城州王について考えてた。
「そうだね。彼は権力者側の破滅思考を持っている。ここに核のスイッチがあったら、迷わず押すタイプの為政者って事になるだろうね。このプログラムでは“過ぎたる技術を手に入れた、ロビンフッドは果たして、どのように力を振るうのだろうか”って単純な問答から始まった。まあ、技術を与える側が傲慢だと、こういう結果になると示されたわけね」
聖櫃としての活動は“班”で行動している。
この世界に集まったのは2チームと、上層部。
いや、もともとはヴィヴィアンさんが担当してたんだけど、メルちゃんらが逃げ込んで2チームになった。
追い込んだボクらにもせき...
いや、責任はないか。
こんな事をしでかしたのは。
「聖櫃の暴走が原因だね、ご迷惑をかけてごめんね」
キルダさんらを前に、モルゴースさんは謝罪した。
魔術師さんは強制的に頭を下げさせられた。
ガウェイン卿の頭ひとつ高い位置からの剛腕の前では、誰であろうとも無力なような気がする。
いあ、ハナ姉は別格かな。
「聖櫃の原罪を問うても意味は無いだろう。それよりも、どうやって止めるかだ」
404の調査や甲蛾衆の調べでは、暴走させたというワードを頻繁に拾ったという。
都市が消し飛ぶほどの威力から推測すると、
「精霊炉しか思い浮かばない。マル殿が作ってくれたミニサイズのにまで到達出来たのだと仮定すれば、頻繁に会話にも出た暴走との整合が取れそうなのだが」
けど。
――アリスさんには悪いけど。
「あれは中で発光こそすれど、生じるエネルギー量は煙草に火を灯すくらいのパワーしかない。確かに、導火線に火をつけるとか、その力の使い方は百か千、あるかも知れないけど」
そいつは自殺行為だ。
いや、それがしたいんだから、ソレもありかと...
言葉に出してから腹にストンと何かが落ちた。