- C 946話 終末を告げるチャルメラの音 1 -
「灯を入れまーす!!」
50センチメートル厚に匹敵する、コンクリートの壁が四方に張り巡らされて。
そうした筐体の中にひとつの人形が置かれてた。
ゴーレムの方は、昔ながらの錬金工作で。
ゴトゴト、無様に揺れ始める。
座らされてた目もない、鼻もないのっぺらぼうの木偶人形が。
上下に小刻みな揺れを引き起こして。
唐突に、吹き飛んだ。
「爆発しましたー!!」
強度の問題だ。
オリハルコン粘土は配分が重要で。
魔女の後継には未だ、早かったかな。
なんてボクのほくそ笑みでも感じたのか――「配合を変える! もう一度、いや出来るまで実験だ!!」
なんて、負けず嫌いを発症してた。
ほーん。
なかなかやん。
◇
自身を魔女の系譜に連なる者だと言った、防護服の少女。
研究好きで、人嫌い。
他人との距離が分からないから、物理的に隔たりをつくった。
それが彼女の防護服。
普段着用と。
清掃用と...実験用。
工房の奥に倉庫と言う自室があって――城州王の地下工房に住み込みしている奇特な、錬金術士なんて彼女くらいなものだ。怪しい実験道具や飛散、霧消するようなガスの類なんかも研究している、物騒な施設に自分の命を預けるような真似。
普通の神経ならとうの昔に壊れてるだろう。
だから彼女は、ソコにいる。
まあ、熱心に人嫌いの根本を壊そうっていう研究に没頭してる訳だ。
根本原因、そりゃ...ひと種族の駆逐だろ。
いや、もっと大きくまとめると、だ。
自分もふくめたすべてと心中したい。
◆
ボクは空虚に、ふたつの大きな白っぽい“たわわ”を眺めている。
404も甲蛾衆も逃がし終えて、そう。
とりあえず大きな仕事を終えたのだから、ボクが風呂に入っても。
文句は無いと思ってたんだけど。
湯船に肩まで浸かったのは久しぶり過ぎて。
きっと、うとうとと眠りに落ちたんだろう。
で、だ。
逆上せたボクの判然としない視界に。
上下に揺れる見事な果実に釘付けになってる訳だ。
「なんだ、先客があると思えばマル殿かい」
やや野太く、ハスキーで。
粗野にも聞こえて頼もしい語気――ガウェイン卿だった。
工房の風呂は空間を生かし過ぎて、大きく作り過ぎてしまったと思ってる。
なんせ、湯を張ったら湯気のせいで端から端までの感覚が無くなるのだ。
加えて中央が160の身長でも足が付かない深さに仕上がって。
なんなら泳げる湯船という。
いんいや、これはボクの発注ミスと、現場を任せた人選ミスである。
くっそー!! ハナ姉に任せるといつもこうだよ。