- C 941話 賢者と魔女の末裔 1 -
まず、異変のひとつは。
城州王の宮殿内で起きる――侍女5人、庭師3人、書生ひとりの行方が消えた。
書き消えたと訳ではなく、小隊規模の兵士たちが現れると。
申し合わせたように、手荷物だけ持って宮殿から出て行ったのだ。
それぞれ直上の上司の卓上に。
『辞表』
なんて書かれた書類が置かれてた。
まあ、律儀だけど。
時を置いて、秘密警察も動く。
防諜教導団の目を掻い潜った手際の良さから、同業者だと推測され。
新機関の局長となった者は、城州王の嫡子・寧恬に呼び出されて――「さて、どう言い訳するんだい。陛下は些事なことだと寛大に流すつもりだけどもさ。俺としては、泉州王の叔父さんが組織した元帥府から使えそうな人材の手配した手前、これ以上の失態は続かせたくはないんだよ。分かるかな?」
その意味も。
この意味も。
あの意味に、それの意味もだ。
局長にとっても後がない。
少なくとも、他国のスパイよりもだ。
隣国に手配したスパイたちからは目ぼしい情報が上がってこない。
理由としてあげられる点はただひとつ。
懐柔された。
故に、解雇されるだけの材料が寧恬にもある。
「ただ今、いえ、早急に」
追い詰められてる手合いの差が違うのだけど、嫡子だから安泰って訳でもない。
あの父親ならば、平然とした顔で息子の身体に爆弾ベストを着せてくるだろう。
だから、両人ともに戦功が必要なのだ。
「いあ、分かってない。早急じゃねえ、今、すべての出口を見張るんだ!!!」
「そ、そんな事をすれば」
パニックになる。
秘密警察が表に出ないだけでも、だ。
「やつらには軍がバックに居る。身内か、或いは密かに潜らせてたのか、奴らにはこっちと同じ武器がある。しかも俺たちには何人裏切ったものなんか、わからねえと来た。だったら、分かるようにしなくちゃなんねえ」
しなくちゃいけないのが騒ぎを多くすること。
三公との内戦は継続中だし、この上、安泰だと思われてた王直轄領でも紛争となると。
一度は靡いた小貴族たちの動きも把握しきれなくなる。
「やはり止めた方が宜しいのでは? 収拾がつく自身がありません。裏側から、国内の治安を保全する難しさは重々承知です。このように国内を掻き乱し立てるは、スパイの常套手段。我々も陸諜ほどの経験はありませんが」
「じゃあ、そいつらか?!」
東洋王国の差し金かって問いだけど。
それは考えられない。
いや、彼らならばこの機に乗じて、三公の国境線を上げてくるだろう。
そうしないのは...
◆
小隊に守られた一行、例の404に所属している少女たちなのだけど。
彼らは皆との封鎖1時間前に国外へ脱出された。
本隊の方404は間に合わなかったけど。
リリィと共に、百舌鳥が彼女らと合流する。
「妹たちを脱出させてくれたのは、甲蛾衆がたなのだろ?」
ラミア少佐が応対。
「甲蛾衆も脱出しなければ成らないだろうに...」
言葉が詰まりかけた。
どこも家族は大事なんだよね。