- C 940話 光の天使長 5 -
毛むくじゃらの汚女神の前に通された天使長は、激しく燃えた。
これは持ち場を離れた女神からの罰と同時に、数日間のデイリークエストを放置してた折檻でもある。
なんとも肉の灼けた香ばしい匂いが、部屋に満ちて。
「なんか、お腹すいちゃったね?」
天使長を消し炭にした後で、汚女神が不謹慎なことを言う。
白亜な眩しい部屋の中をぐるりと見まわして、
「出前、取ろうか?」
や、何処から。
見渡した結果がクチを吐いて出ただけで。
彼女に他意はない。
ただ、そうただ。
ツッコミの無い世界は空しいだけで。
ごほん...
灰になった筈の天使長の咳払いが聞こえて。
黒電話を捧げる中級天使と、各種のメニュー表を持ってきた上級天使。
燃えカスだった天使長の指が『寿司』を指し示す。
「おっと、喰い意地はあるんだね~ 天使長は」
ちょっと楽しくなった模様。
◇
天界から注文を受けたのもまた、別の世界。
世の中は広いんだよ~って声が聞こえてきそう。
「天使長は寿司が良かったみたいだけど、肉が灼けたんだ。やっぱりジューシーな肉を喰わねば、灼けた甲斐もないでしょ。てな、訳でアメリカンビーフを取り扱ってるお店にしました!! はい、みなさん愉しそうに食べてください。これ乙女神としての命令です」
拍手が部屋を満たす。
とりま、音頭をとって拍手の誘導。
上司がいる前での食事の気まずさはない。
また、それが汚女神なら。
「はい、そこ! 立って、立って」
急に指さされて、
「天使長は何をしてたのか、応えてみて?」
彼と同じ階級の上級天使。
肉に齧りつかんとした矢先に止められた。
「あ、や、えっと」
「はい、残念」
燃やされた。
彼もその場に消し炭となって、灰に。
天使長は自身のご褒美だと思ってるから、どんな形であれ日が立てば自動で復活する。
が、他の天使たちにそんな機能は無い。
燃やされたら、即死なのだ。
「彼の配膳は...勿体ないから、天使長? 処理してくれる」
覗き込む灰。
その嬉しそうに灰が赤くなってて...
周りの天使たちが委縮する。
そんな嫌な空気になってるんだけど。
「は、はいぃぃぃぃ!!!」
勇者が現れる。
「あら」
「て、天使長は、その!! 人間たちのののぉぉぉ~ 下界の状況視察に、い、いぃぃ行ってました!」
勇気を振り絞った下級天使。
門番で、今は休憩中なのだけど。
「そっかあ、でも残念。わたしはあなたに聞いてない。聞かれもしないのに自発的にしゃしゃり出た子を寛大に赦すほど、私が甘い神だと思われるのは癪なわけ。だ、か、ら~あんたも灰に決定!!!」
指を鳴らすと、下級天使が断末魔と共に消滅した。
工房から出たら出たで、恐怖政治の開始。
出なきゃ出ないで、世界は神不在の虚無になる。
「天使長の目、下界はどう見えたのかしら?」
例のファックスみたいな電子音が響く。
彼は神に次ぐ権能を得た代わりに、失ったものも多くある。
その身は常に燃えている。
その目は神の善で瞼を閉じ、悪のみで瞼が開かれる。
「上出来よ!!!」
汚女神の哄笑が雷鳴のように轟く。
あ、今、下界では嵐がきてるんです。