- C 937話 光の天使長 2 -
月光を通さないゴミ。
そんな風にも見えたけど、地表で闊歩する人たちにもソレは見えただろうか。
なんていうか。
神々しくも気味の悪い寒気さが。
あ、鳥肌が立っている。
ぼつぼつですわ。
「ひと? いや、背中に...翼?!」
有翼人っていう種族はある。
往々にして性格が大らかで、優しい亜人。
働き者だけど、力仕事には向かないので、郵便配達なんかしている。
魔界のソラトビペンギンともいい勝負だ。
スピードレースとか。
さて、そんなんでもなさそうだが。
モルゴースさんが指笛を鳴らす。
素面のモルドレッド卿、ボクと同じ未成年なのでソフトドリンクで鼻歌うたってた。
彼女が場の雰囲気に酔ってたところで。
呼び出して――「お前にはアレが何に見える?」
他人の脳を使うってのはこういう時だ。
見ているものが、ボクとモルゴースさんとでも違う可能性がある。
「天使、ですかね?」
ああ、やっぱり。
◇
「天使ですかね、えっと...違うのですか?!」
なんて聞き返してる。
場の雰囲気に呑まれて酔ってはいるけど。
軽く朱に染まった頬を撫でられたモルドレッド卿。
モルゴースさんの手の甲に頬ずりしつつ。
「天使です、天使です! 物凄く冷めた視線と高圧的な敵意を向けてきていますね、あの6枚羽は」
3対6翼の有翼種といえば、高位の存在。
熾天使と呼ばれた神の右席。
いや、神の寵愛を受けた有翼種の最上位にして、最強の存在。
故に常に身体は燃えているという。
そうか、天使か。
「マル、楽しそうだな?」
モルゴースさんのもう片方の手が、ボクの肩に残ってる。
見上げるべくもない。
彼女も口角が上がってて。
声に震えが伝わってきた。
怖い? いや。
違う違う。
逆、ぜんっぜん逆。
だって、あっちから姿を現した。
「世界の管理者を気取る、あれが...アホ面だ」
◆
天界は大騒ぎだ。
階層の違う世界へと降臨した天使の存在を知ったからだ。
しかも、それが天使長という肩書の者だからだ。
どうにかこうにか、いや手押し車に載せられて。
全身で浅い呼吸の汚女神は、とにかくも執務室に届けられた――ガスマスクを被った天使たちの手で。
天使の階級は九階級あるとされる。
最上位は熾天使で、神の寵愛を受けているから常に身が炎に焼かれているという。
最下位は単に天使、または下級天使とも呼ばれて。
もっとも多く、仕事も多岐にわたる。
汚女神の世話を焼くことが出来ないけど。
偶に~
数百年に一度かな?
溜まった衣類が工房の扉前に放置されてる時がある。
『これ、洗って』
なんて書置きがあって。
そんな爆弾の回収をさせられる訳だ。
汚物回収に対するボイコットが数世紀前にあったけど。
熾天使、智天使、座天使の御手で粛清されて。
えっと、正確な数の分からない下級天使たちが、土くれに戻ったという。
無茶をする。
その後日記に、神は嘆かれたという。
「勿体ないなあ、アレ創るリソースだって永久無料のマテリアルじゃないんだよ?! 有限、有料、課金アイテムとかいろいろ掛かってんだから。わたしの代わりに毎日デイリークエスト熟してくれないと...マジ、怒るかんね!!!」
と、お嘆きに。
いや。
これ違うな。
なんだ、これ。