- C 936話 光の天使長 1 -
この世界にも、救済は無い。
そんな一文だけが刻まれた太古の壁画が――。
聖櫃騎士団の宝物庫にて厳重保管されている。
アクリルのケースに、保存した当時の空気も一緒に。
なんとも...
っ、すー...なんとも...
いああ。
なんて言ったらいいんだろうなあ。
確かに“神”のような者を肌で感じなければ、救済は無いと結論下しちゃってもいいんだろうけども。
それは、ソレ。
一般公開してくれた、魔術師さんには悪いけど。
だからどうした?的な感情しか湧かないのは。
「心が渇ききっている!!!」
魔術師さんに叫ばれた。
いあ、なんか本当にごめんなさい。
「いや、謝る必要はない」
グィネヴィアさんは壁画を見て開口一番で“なんだ、この汚ねえ土くれは”なんて呟いてた。
モルゴースさんはマジマジと見て。
「こんなん蒐集してたっけ?」
ケースに入れて後生大事に崇めてた連中との温度差。
メルリヌスも総長って立場も放棄して、姐さんたちの機嫌を取り始め。
大いに亀裂が入る。
◇
「ま、正直ね。天使の連中のちょっかいが一番余計なことだと思うわけよ」
とうとう宴会部長に酒が入った。
彼女にすれば大事な命の水だという。
うーん、ドワーフ的発想?
「自分らのことは棚に上げてか」
キルダ・オリジナルさんも参戦して。
彼女は実はもっとも大事なことを告げる為にクイーンズランド王国・後宮へ出向した。
が、下というか。
ボクの工房で宴会が開かれてたから立ち寄ったという。
もう、たまり場じゃんかよ。
「ふぐぅ、棚、棚か...まあ、確かにこっちも、まさかそうなっちゃうの?! なんて流れになっていつも地雷踏んでる気分だよ。ゲームマスターの意図よりも、ストーリーテラーたち語り部か、進行役と交通事故になることが多くてね。なんか端から殴り折ってたら、不審者として追われるようになったんだよな」
そりゃそうだ。
勇者に選ばれたって教会で、いあ、今は村か王宮かで告げられるシナリオに干渉して。
聖櫃の連中は早速、魔王城に乗り込んでレベルMAXの暴力振りかざして、中盤の盛り上がりをへし折って歩いている。
ソロプレイの世界なら、未だ、いい。
良くないけど、たぶん誰にも迷惑が掛からないけど。
オープンワールドの多人数参加型で、横から獲物を掻っ攫うのはマナー違反である。
魔王城がもぬけの殻になったからって理由で、別のナニカを置き土産にする悪質さ。
不審者どころか災害級の鼻つまみ者である。
で、自覚がない。
「不審者じゃない、破壊者だ!!」
「デストロイヤー、かっけえー」
反応したのは魔術師。
ほら、アーサー卿やガウェイン卿が引いてるよ。
どうもネジが飛んでるのは、魔術師さんのようだ。
工房の換気をしにボクは席を立ち。
地下深いのに空間魔法で作った疑似窓から“月夜”を見る。
地表の天空も、この窓から見る風景と寸分違わないものだ。
「ふむ、月夜か」
酔い覚ましだと言って、モルゴースさんがボクの背に。
肩に両手を突いて。
「――聖櫃の成り立ちは、はじめの第一歩と同じ地点からなんだよ。約2万人のテスターが緑豊かな惑星に降り立ち、それぞれが演じてみたい種族として等身大の世界を満喫する。その時に私たち“アヴァロン”が結成され、もっと自由にもっと思い通りに行動したいと、願った連中が...ストーリーに関係なく動いた」
「その結果が、スジ折りですか?」
照れた様子でボクの背に顔を埋めてきた。
なんか吸われてる気もするけど。
「んー。ん?」
ボクのつむじ上で鼻息が止まる。
はて、と。
ボクも疑似空間の窓を見た。
換気のファンは工房から少し離れたところにあって、新鮮な空気の交換中にある。
さて?
「あれは...」
月の光が通らない影が見える。
人影にしちゃあ、高い位置にあるようで。