- C 935話 祈る相手は、 5 -
城州王の下に例の怪しい防護服の錬金術士が傍にある。
忠誠心なんてものは欠片もなく、ただ只管に狂気の実験が出来るなら。
パトロンなんてのは、悪魔でも人でなくてもいい。
そんな希薄な人代表。
まあ、この錬金術士の素性を少し紐解くとすれば...。
帝国の魔女に列する傍流の血統者。
先祖返りでもした、そんな感じだろうか。
とは、当のフィズは否定するだろうなあ。
だってあの子。
錬金術は戦争ではなく、世界にある種族を豊かにする技術だと思ってたから。
子孫たちが躍起になって兵器化してると分かったら、泣くな。
あれなら。
◇
城州王サイドでは精霊炉の小型化には到達できなかった。
参考文献の悉くが、魔女の手記を基にしているからだ。
あれは日記で、無駄が多い。
いや、あの子にしてみれば。
古代魔法紋を利用しないで、魔法陣だけで完結できるよう仕向けているまでは、天才的といえる。
しかも、魔法陣を面ではなく立体的に捉える発想なんて。
普通は考えないものだ。
あ...、
いや。
多元展開法陣による魔法のぶっぱ実験はした事があったな。
あれからの着想か。
「小型精霊炉ではない、と?」
スカイトバーク王国の街消滅事件――飛行禁止区域からの航空写真を王の執務室で鑑賞している。
この映像はライブである。
つまり静止画に見えて動画だというわけだ。
現場上空に“遠見の鏡”を持ち込んだ。
「はい、厳密にはですね」
淡々とまた、堂々としている。
何時ものようにくぐもった声は、防護服だからだけど。
その防護服は胸を張って応じてた。
見慣れた光景だ。
地下の工房から地上階の王の居室まで。
変人が素通りできる城内。
ま。
非常事態戒厳令下だ。
国外のスパイとその協力者らしい者は投獄され続けてるし、怪しい学士ひとりに怯える必要はない。
悪魔と取引をしたのはどちらか。
「結論から言いますと、魔女の理論は無駄が多いんです。触媒でご機嫌を取り、留める為に細心の注意と、過重労働させないためのストッパーが幾重にも張り巡らされ、至れり尽くせりの休憩時間...これは、機械のクールダウンタイムかと思わされてましたが。違ったんです! 精霊に睡眠時間まで与えてたッ!!! ナンセンスだ、非常に意味がない。アレはエネルギーです、純粋なパワーの塊なのです。燃料の癖に与えるものが多すぎる!!!!!」
興奮しすぎ。
卓上を叩くような暴挙に出てないけど、くしゃくしゃ鳴る防護服の腕は。
ぶんぶん上下に振ってて。
なんか液体でも飛んできそうな勢いがあった。
「なんです?」
嫌悪がの視線に気が付く学士。
視線には敏感なのだ。
「いや、液体が」
「飛びませんよ、清掃用の服と、普段着は切り替えてます。この執務室には特別な仕立て服で来てるんです、高いんですからね」
と。
いやいや。
皆の胸中を過った言葉は――『なら、防護服以外のを仕立てろ!』だ。
「服のセンスをとやかく言われる筋合いは」
「話が進まんと、言っただろ? 余計なことで学士の時間を盗らせるな。で、精霊炉の無駄さは熱弁で理解したが。要するに何をした、具体的には何を触媒にしたのだ??」
理解力があって助かる。
学士の微笑みが城州王にも伝わってる。
その傍らに立つ息子にもだ。
どうも、似たものであるようで。
「わたし、人を使わせて貰いました!!」
満面の笑みだった。
これ、怖いやつだ。