- C 934話 祈る相手は、 4 -
世界中の人々が祈りを捧げる乙女神が。
実は毛むくじゃらの化け物だった――もとい、汚女神だったと知ったら。
「城州王じゃないけど、世界を敵に回せると思う」
その人は引き合いにしちゃあダメでしょ。
自分の思い通りに行かないから、世界を壊してやるって行動してるタイプだよ。
世界をどうにか出来る、チートパワーがあっても。
リセットボタンが押せる奴には、どう足掻いても勝てやしない。
やるぞやるぞ詐欺は、詐欺だし。
本当に押せるのは。
◇
そう言えば。
城州王は何をしているのだろう。
ここんとこ、いや。
スカイトバーク王国の街を消し飛ばした前後の行動が判然としない。
だって、404が暗躍しているダービーの港町も含めて、国内は非常事態戒厳令が敷かれてる。
タイムリーに聞こえちゃダメなやつ。
国王を第一に、軍隊が言論と行動の自由を阻害することができる統治法。
簡単に言ってしまうと、そういう状態である。
新王朝発足時には貴族院と市民院の議会が制定されて。
共和国の真似事みたいな、国民選挙が開かれ内閣が生まれた。
まず、そこまではいい。
その後すぐに戒厳令によって議会が凍結された。
あっという間の出来事だったらしい。
国軍はもとより国王派だから宣言と同時に行動したようで。
王朝に異を唱えてた、前王朝派の両院議員が一掃されてた。
計画的だったという話だ。
と、同時にスパイ狩りも始まる。
旧防諜教導団のエージェントたちが、また強引な捜査で息苦しくなってた。
今までカラーだった南洋王国が、途端にセピア色になったような。
まだグレーじゃないところが救いかもしれない。
404が根拠地としている娼館も、2号店を手放す決意をする。
国内で手広く商売してたけど。
「軍人ども、軍票なんて紙屑で飲み食いしやがって」
フロア長におさまってた眼帯、紅灰色のスレンダーな女性。
髪を櫛で整えながら、
「それ、公に言うと」
「言わねえよ。バックヤードで愚痴るぐらい自由だろ」
盗聴器が店の中にあることは確認済みで。
排除してしまうと疑われるので、周波数で阻害するよう配慮した歌謡音楽が店内に沁みていた。
「金の代わりに懐から出ていく軍票はよ、港の市場じゃ使い道がねえし。とはいえ、配給以外の缶詰その他を出すわけにもいかず。上階に居る姉さんたちも、どうしようかって悩んでると思うぜ」
軍票はダービーの行政庁に持っていくと、国際通貨に引き換えてくれる。
が、ここでレートの格差にぶち当たる。
金貨1枚当たり1万票くらい必要になるんだけど、軍票数十枚で2時間以上の女遊びができた。
こちらで価格は決められず。
軍人さんの言うがまま、だ。
貯えも底を尽きそうだけど。
じゃあ、郷に帰りますって自由はもう、この国にはない。
「誰か助けに来てくんねえかなあ」
切実な悩みになりつつある。