- C 927話 水上器の運用事情 巡洋艦編 -
人口比で大国、小国と別れても。
魔法士の素養を持つ人種の比率は決して、比例することは無い。
1000万人の人口を抱えるから、必ず1割は居るなんて言えないように。
数百万人の人口でしかない小国なのに。
魔法大国って場合も多く。
この辺りのさじ加減はもう、神々の悪戯っぽいものである。
◇
水上器が盛んに運用され始めた近代。
“木馬”に下駄を履かせる試験機体が登場するようになる。
これまでの水上器回収は、波穏やかな水面に特殊なシートを浮かべておいて、その上に着水させるという方法が取られてきた。シートの長さが数十メートルは必要で、かつ展開するには波が立ってしまうと断念しなくてはならないという。
経済コストが非常に高くつくものだった。
また、回収の為の専用艦が建造されて、発艦は駆逐艦から。
回収は特別艦でとなると、常に戦隊には非武装艦があるということになる。
まあ、足も糞遅いので。
ストレスがマッハで天井を突き破ってた。
魔法少女たちのドレスコードみたいなヒラヒラのスカートで、心が洗われるとしてもだ。
特殊シートの上ですっころんで海に落ちる子供たちは不憫でしかないし。
それが寒い冬ともなれば...
ま、そういう現場の声に耳を傾けた“シントラ”王国海軍の手によって。
およそ世界初となる大型フロート付“木馬”の着水実験に成功することになる。
木馬の胴全体を船形にして、少々の波高い状況でも着水できることの証明とした。
まあ、実際には波は被ってしまうので。
ヒラヒラのスカートで飛翔することはナンセンスだと指摘。
同王国での魔法少女や少年たちには、専用のウエットスーツにライフジャケット、サバイバルバックパックが支給されて今現在も、都度、時代に即して改良され続けられている。
「カイロは持ったか?」
右目に大きな眼帯をした紫銀髪の女性将校が、少年たちの装備を入念にチェックしている。
バックパックは年々小さく目立たなくなっているし。
胸の前にはハンドガンのホルスターがある。
9ミリ拳銃で、総弾数は11発。
太ももにはナイフが2本あった。
「イエス、マム!!」
返事だけは一人前だが。
駆逐艦は少々大きくても、容積の方で限られたスペースしかない。
しかし、偵察型軽巡洋艦を経て。
より実践的に、かつ大型化していった重巡洋艦となると。
排水量は一気に数万トン規模にまで到達する。
シントラ王国海軍のブラガンサ級は、満載時1万4000トンに達し。
203ミリの連装式砲塔を5基(10門)という重武装で、10センチ、5センチ口径の単装砲を舷側にケースメイトで配置し、高い乾舷と良好な耐波性能で遠洋での活動に最適な1隻だった。もっとも、同王国での国力では、同型艦を2隻までしか持つことが叶わず。
結果的に、フリゲートやらスループばかりが就航している。
「――では、諸君! 発艦・着水訓練に着手する。乗員、木馬に跨れ!!!」
「サー!!」
少年たちが一斉に木馬へ。
ふたり一組の運用方法で、木馬の操縦はタンデムの前にある子。
後部の座席の子は武器の管理である。
急降下爆撃や跳躍爆撃、増槽タンクの切り離しタイミングとかも後部座席の子が担うので。
近代空戦の忙しさはひとりの魔法士では聊か荷が勝ちすぎる傾向にある。
「操縦士はバディの状態について細かく把握するように!!」
塔型艦橋の頭頂部、露天ブリッジから眼帯の将校が吠えてる。
模擬空戦の訓練中。
ブラガンサ級に配備されてる魔法士は2個中隊。
2基あるカタパルトから同時に2組の木馬を射出出来て、1個中隊が10分以内に飛翔完了する。
着水は2基のクレーンでUFOキャッチングされるんだけど。
これがまたごちゃごちゃ、がちゃがちゃするんだわ。
今んとこ、このわちゃわちゃした騒ぎが悩みの種。