- C 925話 羨む者たち 5 -
西大陸の正統継承者として――
スカイトバーク王国が後見人として立ち、途絶えたとされる王朝の忘れ形見を表舞台へ。
ペングラム王朝ウティカ2世として即位。
その実態は。
齢14歳のジャガジャガ王国から売り飛ばされた、薄幸の少年王である。
◇
欧州に対する抗議は形だけに留めた城州王サイドは。
王国市民の多くを味方につけて――民意は我が王朝にある――って宣言。
これは海を挟んだ静かなる外交戦争になる予定だった。
そう、従来通りならばなる筈だったのだ。
だが、そうならなかった。
両者の立場による宣言の後。
スカイトバーク王国・水上都市“サリュス”が忽然と、地表から消失した。
現象としては強い閃光の中に呑まれたという証言が、同名湖へ漁に出ていた船頭から得た。
急遽、国内の防諜組織が“サリュス”に派遣される。
「都市が蒸発した?!」
ホリデーシーズンも間近に、都市でも浮かれてたようで。
各国から旅の商人たちが溢れかえってたという。
そうした一見すると、
恒例行事のような活気あり、情熱的な雰囲気だった都市には、まあ何が起きても不思議では無かったのかもしれない。喧嘩とか、或いは盗賊やゴロツキが雪崩れ込んでくるとか、治安維持も人手が足りなくてかつて冒険者だった傭兵たちにも、助力して貰ってただろう。
そんな水上都市に何が起きたのか。
遠見の鏡越しに結晶化した小石を見せつけられる、拉麺・ローデシア嬢。
なんつうか、
すっごい眉間にしわが寄ってるようで。
余りの寄せ具合から、橋でも掛けられそうな雰囲気があって。
鏡ごと。
ぐぃーんとボクに突きつけてきた。
ローデシアさんら、一旦は西大陸の方へ戻ったんだけど。
こんな蒸発事故があったもんで東大陸に密入国までして、ボクの工房に転がり込んできてた。
鍵かけてたんだけどなあ。
「あんな鍵、鍵なんて呼べる代物じゃないっす」
扉の上から、下まで12個もあるダイヤル式の鍵なのに。
鍵とは言わないとはこれ、如何に。
「さあ、さあ、この現象についてフィズさまが師匠と呼ばれている、マル師のご見解は如何に!?」
くそー。
幼女然と愛くるしいフィズは。
転がり込んできたローデシアこと、ぴんく☆ぱんさーの総長とアマゾネスらを迎え入れてだ。
ボクに改めて紹介しやがった。
『このちっこいのが今の先生です』って。
御かげで、ゴーレムの改良もしたいのに。
精霊炉の暴走に無理やり付き合わされている。
「ちなみにこの世界での精霊炉の普及率ってどれ程なの?」
ちぢれ麺を彷彿とさせる髪をかき上げながら。
ああ、玉になって指が抜けなくなったみたい。
そんなに引っ張ったら指の前に、禿に成るよ?!
ああ!!!!
こう言わんこっちゃんない的に。
髪が束で抜けたように見えて、ウイッグが頭からもげた。
工房にて働いてるゴーレムと。
茶会だけ楽しんでるモルゴースさんにメルちゃん、エサ子、フィズに...ああ、ウナちゃんが一斉に。
「ぎゃあああああああ!!! 頭、もげたあああああああ!!!!!」
大騒ぎになったのは必然でした。