- C 924話 羨む者たち 4 -
精霊炉の暴走だけなら定着させる必要はない。
いや、呼び出すのを時限式に。
と、フィズから問われたけど――
「ダメダメ、ボクの場合は触媒無しに引っこ抜くとか、乱暴めいたことを口にしたけど。フィズが自身でやってみたんだろ? キミですら星の内海に手が届かなかった...」
彼女が俯いてる。
ふむ、図星か。
だったら分かってるよな...
拉麺・ローデシア嬢との研究もその辺かな。
「目隠しをして生け簀に手を突っ込んでるようなもんでさ、結構、コツが必要なわけよ。暴走させるだけだとしても、触媒は必要だと思うよ呼ぶにはさ。少なくとも雷属性を呼びたかったのに、似てるだけでって光属性のが来ることもある...。こいつはね、マジ非効率的な大博打なんだよ。内海に手が届いただけじゃあだめなんだ、手が届いて目利きできて――」
ん?
おやおや、なんか空気が変わった気がする。
ピリつくような。
「――とすると、だ。マルが書いた術式を真似たら?」
モルゴースさんの両手の骨が交互にポキポキって鳴ってますが。
な、なに?こ、怖いんだけど?
「あー、ちょ...ふぃ、フィズー!!!」
ヘルプ、ヘルプ。
あんたがきっとヤったクチだよね。
「ダメでした。理論というか理屈、理解していると思うわたしでも......、内海から引き抜くことは出来ませんでした。召喚魔法陣に流す魔法量は微々たるものですが、“存在固定”させるには馬鹿げた魔力を必要とします」
フィズは“チート”級だと告げた。
だから帝国の魔女は『憑依させる』という発想にたどり着いた。
暴走するだろう驚異的な力と、分の悪い契約を結んで従わせる。
すっごい間が開いて、モルゴースさんから『そっかあ』って聞こえた。
「...っ、精霊炉は実現したのだから、帝国の魔女の着眼点は間違いじゃなかった。少なくとも超巨大な炉をイメージしてたフィズが驚いたように。そしてボクはもっと小さく出来るのにと...感じたように、ネジの飛んだ天才は現れる者」
きっと、モルゴースさんが尋問を終えようとしてたタイミングだったんだろう。
ボクはまた火を点けたんだと思う。
「――アリスさんにお土産であげた豆電池みたいな精霊炉。アクセサリー程度くらいにし利用価値はないんだけどね、高耐久性に優れたゴーレム製の強化ガラス筒に封じられし、光属性の大精霊なんかは錬金術師が見たら卒倒するだろうねえ」
とか。
我ながら余計なことを口走ってたと思う。
傘の柄をツナギ服から外して、ボクは捨て台詞のように静かに退場しようと。
ばたつかせてたフィズの足が止まり。
ボクの背にかかる圧が、重い。
「なあ、マル。お前だったら何処まで小さく作れるんだ?」
モルゴースさんの掌がボクの後頭部に。
鷲掴みになってるんですが、ちょ、ちょ、怖い怖い。