- C 923話 羨む者たち 3 -
「精霊炉、精霊炉ーっ?!」
やや惚けてるような雰囲気を残しつつ。
モルゴースさんの怪訝そうな表情の前でも、自分ってのを持って対峙してる幼女。
この子、こんなに度胸あったかな。
「そこ、外野から煩いですよ」
ボクに指さすフィズ。
おおーすごいよ、すごい。
ボクにも強気な態度じゃないの。
「えっと、ええ。確かに! 師匠とその暴力装置について検討したことがあります。まさか、世界中で使ってる動力機関と構想だけのソレと一緒にしちゃってるんですか?!」
応えてる本人が驚きのあまりに、肩をすくめてみせた。
彼女の記した日記帳の中では、完全に再現が難しいものとして妄想全開だったようだ。
フィズ自身は、巨大であろうとも精霊炉の実物を見て感嘆したんだと。
「じゃ、ちょっと待って」
退場しようとするボクのツナギ服に傘の柄が掛かる。
あの釣り針のように反りかえっている部分で――ボクを捕獲したわけで――「こらこら、逃げるんじゃあないよ。マル、お前の方こそ何をやらかしやがったんだ???!」
あ、あ、あ、...あっれ~ な、なんのことかなあ~
震えるボクと、堂々としているフィズとの差はなんだ。
なんだろうなあ。
◇
精霊炉の基本構造は、精霊を燃料にして――だ。
召喚用魔法陣を書いて任意の場所に喚び出すがひとつ。
彼らが存在するのは別世界で、基本触れることのできない高次元の存在だ。
これを物質世界に固定させて捕獲する術式がひとつ。
最終的に、そんな驚異的なエネルギー体を燃料にするという発想が狂気の沙汰で。
呼び出すことは出来るけど、固定することが出来なかった。
今までも、これからも。
じゃあ、どうするか。
苦肉の策ってのが帝国の魔女の推論で。
触媒に憑依させて物質世界に繋ぎとめる方法。
火の精霊が好みそうな触媒を用意して、契約する。
これで火力発電するとか、ないとか。
「うっわ、非効率的だ」
ボクは思わず本音を顕わにした。
いや、だって。
星の内海から適当なヤツを引っこ抜いて、炉にくべればそれOKじゃんよ。
「はい、マル師の暴論。これっすよ、これ!!」
フィズが足をばたつかせながら、ボクを指す。
すっごい嫌悪剥き出しだが。
これでも可愛い後輩である。
「実際に、騎獣の調教でも同じことが言える場面があるです。マル師の理論で言うと、捕まえた獣に馴致は不要。誰が主人なのかをゲンコツで語り合えばいいとか。無茶ですよね、モルゴース師なら分かってくれると思うんですよ」
なんだよ、ボクを化け物でも観るような。
フィズの問いにモルゴースさんも頷いてた。
「確かに、いいとこ突いてる」
えー???
「では、マルに問うが」
「はい」
やや不機嫌に応えた。
あ、いや実際に納得はしてないよ、なんでボクが。
「今の精霊炉について率直に」
「効率が悪い」
「お前なら?」
いや、モルゴースさんもふと顧みた気がした。
ヴィヴィアンさんの乗艦の存在に、だ。
あれ改良しちゃってたね。
「あの小型だが...」
「大きいのと同じ出力、出るけど。いいでしょ、スペース開いたから2発式にして役割分担させてあるんだよ!!」
その時点では得意げだったんだけど。
「賢者、それ他の人でも再現」
「さあ。書き写しが出来るんなら...ワンチャン?」
いあ。
本当に魔法にある程度の明るさが必要だし、稼働前だけ膨大な魔力を喰うだけだから。