- C 922話 羨む者たち 2 -
帝国の魔女こと、ケーニヒスベルク伯マーガレット・イクリンガス。
彼女の功績と遺した数々の遺物は、世界の不思議と直結していると言われている。
誰かが。
さて、彼女が記した恥ずかしい日記の更に写しの写し。
恥ずかしい部分だけをカットした...
まあ、ディレクターズカット写本とでも言い直そうか。
その遺物には、精霊炉のことが記載されてあって。
理論上可能な部分だけを抽出したのが、今現在の形だというのだ。
そう。
無駄な部分が多いのはその為だ。
「はい、フィズここに座って!」
ボクの傍らには、キング・マンタにあった筈のフィズ・アーチペラゴーニュ。
行方知らずとなったスカイトバーク王国の末姫で、拉麺女・ローデシアとはどうも研究仲間だとか。
こっちでも何かしてたか。
「さて、単刀直入に問うッ、お前、何をしたんだ!!!」
「なんで急に怒られなくちゃ?!」
そりゃそうだ。
主語がねえじゃねえか。
これで察したらエスパーだよ、実際そんな能力に目覚められたら、ボクの方が怖いわ。
「あ、や。ごめん...帝国時代に何を書き残したのかって」
正直、これでもフィズはきょとんとしている。
正座してた彼女が足を投げ出し、
奇麗なあんよだね、うん、可愛いなあ。
「うーん」
長いぞ、長い。
即答できないくらい横に傾くフィズ。
暫く目端に天井を捉えながら、傾いたままで――「んにゃ、わかんにゃい」だ。
糞、可愛い。
「親バカか、お前は!!」
モルゴースさんに叩かれた。
◇
スリッパで叩かれたボクは、フィズの眼前でバンドしながら転がって。
視界からあっさり消えていった。
主人公の筈のボクの扱いがぞんざいすぎる。
「役者が独り退場したところだが、フィズ・アーチペラゴーニュ...んにゃ、マルが呼びつけたのなら、あんたは帝国の魔女マーガレット・イクリンガスで間違いないんだろ? 帝国には魔女の因子を持った連中が裏や表立ってに跋扈しててねえ」
足をばたつかせる幼女がモルゴースさんの前に合って。
ボクなら引き攣りそうな場面なんだけど。
どうも、肝の据わった子は変なプレッシャーにも耐性があるらしく。
「手記には生憎と、アイデア帳くらいの価値しか無くて。マルちゃんと楽しく妄想してた夢物語を記してるだけなんですよ。そんなネタ帳から指摘されても、わたしには『さあ』としか答えようがありません。例えば、動力源をその当時かなり珍しかった“マナ結晶体”で補う内燃機関を練成して、馬車に埋め込んだら自動車になるねっていうネタが何処かに書いてあると思うんですよ」
実物を見ない事には納得しがたいけど。
確かにそんな夢物語を、ボクらは帝国解体時に話したりしてた。
まあ、殆ど暇つぶしでしかない。
彼女も侍女マーガレットの時の身分だった頃だ。
その時代では帝国の魔女なんて求められてなかったんだけど。
「では、精霊炉は?」
「ああ、そう言う事ですか」
彼女は何か察したよう。
気味の悪い笑みを浮かべてた。
あれ? これ本当にフィズなのかな?