- C 916話 狂気と脅威 1 -
アーガイル領・第三都市の跡地に404が入る。
派遣されたのはリリィとユウキだが。
規制線が張られた爆心地には未だ、入ることが叶わないようで。
何もかもが無くなったかつての港町から、西に2キロメートルと少しに仮の宿場町が出来ている。
大惨事による弔問客が宿するキャンプのようなトコ。
リリィとユウキも、喪服を仕立てて――。
逗留していた。
別行動中の甲蛾衆とも合流したところで、町はずれの厩舎に拠点が移された。
「まあ、馬の糞がありますわ」
世間知らずめいたお嬢さま然を気取るリリィに対して。
やや呆れたようにユウキは、糞を遠ざけた。
「ちょっと! マジで触ろうとしないでよ」
「ふむ、御ふた方は世間知らずの娘と、従者みたいな立場で来られたのかな?」
リリィはドレスで。
ユウキ・シアンはパンツスーツ然とした執事風。
薄い谷間が線の細いイケメンにも魅せていて。
女性だと言われなければ...ちょっとわかり難いなあと。
「ええ、まあ。バカな娘を演じさせれば、リリィのスペックが表に出難いかと思いまして」
そう装えと言ってきたのは特務機関からだが。
誇張し過ぎた演技は本人のアドリブである。
「実際に握ってみせたら、頭のイカレた娘だと思うだろ、身内からも忌避されればわたしのレベルも上がるような気がして...」
あくまでも気がしてだ。
それで演技が上手くなるなら、稽古の必要がない。
◇
甲蛾衆からは、百舌鳥と鶯が派遣された。
どちらも東大陸で活動しているクノイチであるのだけども、こちらも女性であると明かされなければ、まったく気が付かない声音と風体で装ってた。
これぞ正に、変装の極みと言うのだろう。
「ええと、閃光に呑まれた街は」
「7日です。すでに7日も経過しても、街の情況を把握することが出来ません」
ユウキは外周をぐるりと、線の細い足で回ってきたことだけを簡潔に話す。
先ず、街が無くなった。
これは火を見るよりも明らかで、何もなくなっている。
街に伸びてた街道がガラス状の結晶になって、跡形もなく消え去っているから分かる。
黒墨の向こう側が街だった。
そんな雰囲気と言うか、土やら木々の影が地面に残っている辺りから、規制線が張ってあったから。
「ふむ、ガラス状か」
「何か心当たりでも?」
ふたりの眼が百舌鳥に刺さる。
「いえ、これは受け売りです」
はい。
「高温にさらされた物質の状態変化によって、稀にガラス状へと変化するとか」
確かに、いや。
僅かにだが精霊たちの亡骸めいたものが見えた気がする。
鶯も似たことで頷いてた。
「まるで悲鳴の残滓のよう」
エネルギーの塊でしかないと思っているのは、一部の傲慢な錬金術士のみだ。
その中にボク、マル・コメも含まれる。
あれは単なるマナの塊だ。
マナ溜まりで結晶化するマナ鉱石だって、大差ないし。
崇め奉るから、調子に乗るだけのゴブリンみたいな知性しかないし。
「そんなエネルギー体をどうにか出来ないかと、あの手この手で捕獲しようとしたのが...つまり」
「精霊炉?!!」
馬の糞を掴んだリリィが静かに応えてた。
いや、その糞何処から持ってきたんだよ?!