- C 915話 三公の独立 5 -
具体的な独立構想は未だない。
ただ、漠然としていて、もやっとした感覚でなら、グィネヴィアさんの中にあるという。
ハナ姉はその手伝いに駆り出され。
ボクはゴーレム造りに没頭した。
◇
迎賓館と呼ぶには未だ手狭だけど。
仮住まいの宮殿と同じ造りで別館として建ってた屋敷に、三公の使者がある。
勿論、互いが意識しなければ鉢合わせしない。
絶妙な地に封じたのだけども――。
「こんなトコで会うとは珍しい」
白々しくもホワイト・レイク公の末姫殿下はバルコニーから乗り出して眼下にあった、アーガイルの見知った顔に声をかけてた。その顔は、前王朝時代にあった暴徒鎮圧などでよく見かけた...。
貴族の子弟あがりの兵士だった。
「ちぅ、またじゃじゃ馬が!!」
仲は良くないけど、馬は合う。
性別を越えて好敵手とかいう間柄にまで発展した。
か、どうかは本人以外は知る由もない。
が。
バルコニーから乗り出して、唾を吐きかける。
それをひょいひょいと避けるくらいの仲だった。
「こ、こら姫だろキサマ!! そ、そんな汚いコトすんなって!!!」
米神に青筋が立ってる。
末姫の方は間違いなく面白がっているんだけど。
「お前んとこの下僕か従者は何してんだ!! こんなアホをひとりにするな」
「アホとは心外な」
大粒の唾を舌でかき集めて――あんべぇ~。
ぼとりと落とす。
ヤバイヤバイ、口で受け止めそうになった。
「何すんだよ!」
もうそういうの好きでしょ、えっちだなあって声が反響してる。
そのエントランスホールに通じてる廊下奥に、ロッキンガムの外務官僚が「子供、いや子供か」とひとりごちてた。楽しそうだから、俺様も混ぜてみろとはならないのが、三公の温度差である。
◇
新政府の要人を交えて、寧華さんと対面となる各国使節団。
三公の中で唯一まともだった“ロッキンガム辺境伯”から会談が始まる――「えっと、事前の親書でもありましたが?」切り出しは、クイーンズランド王国側からだ。それぞれの辺境伯から親書という公文書が先に送り届けられていて、それぞれが独自に“友誼”を結びたいと申し出ていた。
断る理由は無いけども。
城州王からすれば内政干渉の大義名分を与えることになるだろうし。
紛争を長引かせた原因だとも難癖をつけてくるだろう。
メリットよりも、だ。
故に。
「こんな時にこそ、かな?」
卓上に並べられた、特産品の数々。
どこから出てきたんだくらいの貢ぎ物である。
三公にしてみれば、正面の敵に注力できるだけで相当なメリットで。
失うものがあるとすればそれは、負けた時の状態そのものであろう。
「ロッキンガム公は友好の証だけでも、と」
それがなあ。
寧華さんは扇で顔の半分を隠して、参謀となったモルゴースさんに問いかけてた。
グィネヴィアさんとハナ姉は、甲蛾衆と共に情報収集に潜ったままここ2、3日はまったく姿を見ていない。恐らくは、二重スパイとなった者たちから城州王が何処まで知り得ているか、そんなところを探っているんだと思うんだが。
「その友誼は持ち帰るとしよう。この謁見は、秘密裏なものじゃないけども...親善として行動して、キミたちは大丈夫なのかな?」
三公のすべてに問う質問。
独立する気満々だけど、王室とか、そう言うのにはもう何もないの?って聞いてんだけど。
ロッキンガム公の使者の方があっさりしてて。
「まったく何も、です」
清々しいったらありゃしない。
◆
各陣営の使者が東大陸の観光も含めてのんびりしていると。
いや、寧華さんとの謁見の後に“ぴんく☆ぱんさー”と密談となったと同時刻――アーガイル領、第三都市“ウインダム”城下町にて迸る閃光が放たれた。
一瞬にして街が蒸発し、址に残るは溶岩でも噴き出したような灼けた大地があるのみ。
新王朝を信奉する“真竜教”なる過激派組織からの犯行声明。
その後ろには間違いなく城州王がある。
かの狂信者は言う。
「悔い改めよ!!」と。