- C 906話 ぴんく☆ぱんさー 1 -
回覧板の中身は、甲蛾衆アリスさんからのもの。
西大陸から東へ。
出来れば大陸から出たくないけど、そっちに行きますっていう報告。
「なんじゃ、コレ」
パンツは死守した。
沁みは付いてない奇麗な下着だったのに。
ふたりの狂暴な変態のせいで。
ゴムがバカになりましたよ。
「アリスさんもバカに?!」
「いや、歯に何か挟んでる、含んだ言い方しやがって」
ハナ姉が腕を組み、
メルちゃんも似た仕草で背を合わせてきた。
仲、本当にいいなあ。
「ふたりして何か悪巧み?」
ボクはツナギに着替えるよ。
マジで緩んだパンツを太ももで、挟んだままじゃ仕事し難いし。
「では、ゴムがバカになったパンツは?」
そのままでは気持ち悪いので、履き替えるわけだけども。
彼らの目につきそうな、あるいは鼻にかかるような場所には起きませんよ?
「いや、そっちの話じゃないでしょ。...そのまま変態なら殴るよ?」
しゅんとするふたり。
なにその犬っぽいの。
かわいいじゃん。
「...っ、この出向くなんだけど。こちらには高度な盗聴防止の念話なり、遠見の鏡通信があるよね。これで十二分に報告会が出来る」
それが使えない状況。
電波情況以外には、部外者が傍にある示唆。
部外者か~
◇
部外者が来る。
ハナ姉の推測は正しい。
東大陸から人が渡るときは、北回りか。
南回りの航海路が用いられる。
飛行場はあるけど。
民間用に怪鳥ゴーレムの旅客路線なんて無いしね。
空輸がダメなら海輸。
これしかないから問題であり、国境がはっきりしている分、守り易いって話。
「この桟橋でいいの?」
暇そうだったウナちゃんと、アーサー卿が出迎えに。
貨客船から水揚げされるのはコンテナばかり。
「と、言う話でしたが...コンテナばかりですね」
「だよね」
民間航路とはいえ、臨検はある。
人の流れを統制したい城州王としては、領海を出る寸前の船には義務づかせてた。
だから――。
高く積まれたコンテナの扉がゆっくりと開かれる。
「くそぉー、マジで重いじゃんかよこの扉!!!」
力任せに押し込んだ反動で、足元が不確かで不安定な空に踏み出してた。
傘の「し」の字を使って、アリスさんの腰紐に引っ掛け。
辛うじて死のダイブから救った形となってる。
「お、さ、さんきゅー」
「お! じゃないですよ。もう少し周りを見ながら踏ん張りなさい」
男と会話をしてしまったと猛省する者と、その奥に佇む他2名の気配。
「その傘、使えないだろ?」
アリスに触れたという理由だけど。
なんてもったいない。
「出航前の出店で買った安物ですが、残念です」
そっか、なら仕方ない。
「アリス君」
『はい』
ハンカチ越しに会話することが赦されてる。
この訪問前に決まったことだけど。
人間扱いされてない雰囲気にストレスがたまる感じ。
「キミの妹さんに依頼して“傘”を所望するよ」
何でって思わなくもない。
いや、ポーカーフェイスが効かないほど、露骨に顔に出た。
でもすぐに冷静になって、
「あいつは東大陸には居ない。諦めろ」
これで諦めないのが、ぴんく☆ぱんさーの総長なんだけど。