- C 904話 霧の向こう 4 -
装甲列車を死守せよというクエストの成否は、守り切った貨車の損失と友軍の生存率に関係するものだ。無事、クリアすると傭兵たちには給金として50万レアルが支給される。
クエストの受注には、開拓者ランクってのが影響する。
殆ど他人の評価や仕事の成功率に左右されるので、カルマを故意に下げると。
ランクのせいで高報酬クエストが受けられなくなる。
強化甲殻には定期的な整備が必要だし。
痛んだ部位の修理や武装の補給などが足かせとなる。
レアリティの高い。
先述した大手錬金メーカーが、アップデート目玉商品として販売した“レジェンド”強化甲殻。
これらには自己修復機能があるとか...
無いとか。
天井知らずの底なし沼みたいなガチャで。
子供銀行みたいなカラフルな万札が、みるみる溶けまくったっていう地獄の7日間。
ガチャ借金とか。
ガチャ貧民なんて言葉が生まれて消えた。
今のアプデは...
“レジェンド”シリーズ第11弾、雷神トール。
当たる気がしないし。
欲しくもない。
だって甲殻でムキムキボディってどういう事?!
◇
ニューポートから反時計回りに移動して、島の北側。
或いは裏側と呼ばれる地の駅に列車が滑り込む――停車する各地の駅は要塞化してある。
装甲列車を襲撃するのに数十から数百人規模でいいとすれば、停車駅の襲撃には万も越える大軍隊が必要になるからコスパの悪いクエストになる。
まあ、歴史上......。
そんな頭の悪い戦いが無かったことなど、一度もない。
そういう時はいつだって偶発的なものだが。
今のところ、原住民の指導者は暗愚ではないようで。
双方に甚大となる損害が出る前に退いてしまっている。
例えば、ボクたちの方が分が悪い戦いになっても――追撃ってのをせずに車両だけの破壊で逃走する。
「初心者のおめえらは、この十蔵に感謝して、蘇生ソケットを各人一個ずつ置いてけや!」
善意で助けて、知り合いが追剥している場面に遭遇した。
まあ、代わりに蘇生代でもいいけど。
「くぅーなんて寛大な御仁だよ」
また、大袈裟な。
割って入る熊面。
星座から着想を得て、販売された“SR”級甲殻。
大熊座のフル装備は珍しくは無いけど、ロケットランチャー装備スタイルは極めてレアだ。
が、熊面は背中のペイロードにランチャーを収納させて。
「アヌビス(頭)だけの、そんなに虐めなさんな。給金から1割寄付させてやれ」
似た事しか考えんヤツだな。
あんただって似たもの同士だろうに。
ボクが睨むと、熊面は音の鳴らない口笛を吹く。
「それが先輩たちからの後輩いびりってやつだ。絡まれたくないなら、支給品のカートリッジひとつで手を打っておくのも勉強だぞ」
クエストの成功報酬を支払ってた“クレイワース”の工業都市にある開拓局員。
元開拓者が深刻な身体のダメージを負ったり、年齢的にやめた後に就職する場所でもある。
一応、開拓局に入ると...
准公務員として、生活が安定する。
が、3年の内に現役復帰して――
1年のうちに戦死するのがこの職業の特徴だ。
恐らくは、現役の次代に記憶したスリルに空っぽになった心が疼くのだろう。
もはや病気のレベルだけど。
わからくもない。