- C 903話 霧の向こう 3 -
島大陸にある原住民は、大陸の中央にある国から来る。
人類が海岸線から内陸へと進出した頃から、接触が多くなり――戦争に発展したから、内陸中央部に統一された国があると考えて間違いない。というのが、“ニューポート”にある開拓局の見解だ。
甲殻の原理が魔法によるもの。
ゴーレム作成と何ら変わらないと理解されると、錬金術メーカーは島用に販売するようになる。
まあ、これの御蔭でゴールドラッシュのような時代を迎えたわけだ。
以後、2世紀。
原住民との間に、激しくも膠着した戦争が繰り返されている。
◇
緋色に灼けた弾丸が装甲列車の魔法障壁を薙ぐ。
当たれば甲殻の魔法装甲だって簡単に貫通する。
あ、
言ってる傍から熊っぽい甲殻の腕がもげた。
修理、修理。
「た、頼む! 十蔵っ」
吹き飛んだ腕甲殻は肩の関節部分からもげた感覚だ。
当然、操縦者には激しい痛覚が襲い来る。
確かに馴れはあるけど、これに成れるという事は――。
ボクは左腕に仕込んだ簡易盾を展開して、腕を拾い。
熊の甲殻に捻じ込む。
関節部分には人工筋繊維と、骨のようなものがあって。
これに組み繋ぐようにヒールに似た光を当てる。
一見すると、溶接修理しているように見えることから衛生兵ではなく、こういう職業を技工兵っていう。職業的にはメカニックって呼ばれるんだけど、溶接しているように見える光の方が、治癒魔法であるという技術院の見立てもあって。
衛生兵もひっかけて、メディックって呼ばれるんだと。
ボクとしては其の辺りどうでもいい。
魔法のカードひと月上限いっぱいまで回し切った、ガチャの成果により。
ボクは2週間、もやしスープだけで生活して、レアな強化甲殻を手に入れた。慣れない衛生兵ロールで戦場を縦横に駆け巡り...。
十蔵の名を知らぬ者はいないくらいに。
「いや、助かった」
痛みが引くぅ~って、熊の人は言うし。
足がもげた豹っぽい人にも似た施術を施す。
部位破壊で転がる開拓者は、わりと多い。
理由は、其処から熟練者と初心者が分かれるからだ。
◇
振り返ると、甲殻の上部装甲上にハートに翼の映えたマークが浮かんでる。
言ってる傍から即死した奴らだ。
ヒールガンの魔具で治癒できるなら、カートリッジを変えれば...
結論から言うと、カートリッジ次第で蘇生も可能だ。
島の内外でAED銃とも揶揄される便利グッズ。
ただし、支給される或いは補給品に混ざってる蘇生カートリッジは高価だ。
シリンダーカートリッジに装填されたブリッドは4発分。
理論上は4人の同時蘇生も出来るんだけど。
「こいつらも!」
デスマークが浮かんでる1分間は蘇生待ちに相当する。
まあ、死体キックを受ければ待機時間をごりごり削られてやがてデスペナルティが課せられるわけで。
初心者の即死よりも中堅、ベテランの瀕死を優先したいところだけど。
「なあ頼むよ十蔵!!!」
どうも、ツレのようだ。
ボクの評判は、ノラヒーラーってとこ。
衛生兵の立ち回りを模索しながらだったんで、よく、こういう蘇生も熟してた。
頼まれれば。
「っ、分かった!」
蘇生行為は目立つんだ。
崖上から一方的に攻撃される最中で、ひとりの立ち回りも知らない初心者救援ってのは、ボクの方にも大きなリスクがある。其処へ犬っぽい人が皆に声を掛けてタンクロールの盾持ちがカバーに入ってくれたとこ。
いや、有難い。
「十蔵」
分かってる。
蘇生と同時にカバーに入ってくれたシールダーにも、ヒールを掛ける。
この強化甲殻に付与させたスキルのなせる業――皆にはこれのユニークスキルだって伝えておいて、詮索されないよう努めている。
いや。
レア甲殻だって事は、ステータスで見られると丸わかりだから。
強化甲殻のレベルは誤魔化せない。
そこら辺は、もう少しなんとかならないものか。
「ふがっ!」
寝落ちしてたとこで急に起こされたような現象。
初心者がよくやる。
いや、ベテランでもするけど。
こんな忙しいクエスト受けてて寝落ちはしないと思う。
今のところ、メディックで参加している有志でつくった友軍リストを見る限りでは。
《初心者の即死率は相変わらずだけど》
左腕に仕込んだ簡易盾が銃弾を反らす。
魔法盾は展開後2分間は有効だけど、徐々に被弾ダメージを軽減できなくなる。
《そろそろ屋根の下に戻るか》