- C 902話 霧の向こう 2 -
単線の線路を、装甲列車が奔る。
18両編成、前段、中段、後段にそれぞれ独立した機関車を連結させて。
重たい積み荷と自重を前進、加速させて走らせていた。
機関車の後に装甲貨車があり、貨物車両が13両。
装甲貨車の積み荷は重武装の傭兵たちだった。
それ以外の貨車の中身は最前線への補給物資だが。
定期的に湧くクエストにこういうのがある――装甲列車を死守せよ――。
島大陸にあるいくつかのフィールドに届ける物資。
給料とか食料とか、或いは医薬品に衣料なんかもあって。
民間人への大事な物資なんかも載せてある。
死守できなかった時のペナは考えたくもないけど。
各地の街に住む民間人が暫くひもじい環境に置かれるわけで。
ちょっと良心が痛むよなあって感じか。
◇
こういうクエストが定期的に湧く理由。
そりゃ決まっている。
原住民との長きに渡る抗争から、補給線が一番狙われるからだ。
上陸したてから半世紀までは、輸送する手段が馬車しか無かった――外甲殻っていうパワードスーツみたいな未来感があるに。人類サイドの輸送手段が、時代を逆行している理由は“誓約”ってのがある。
島大陸にだけある世界の理。
この大陸の空は見せかけである、だ。
低く飛ぶことは出来る。
まあ、せいぜい...箒に跨って飛ぶくらいなら。
酸素マスクが必要ではない高さ程度。
標高が数千メートルありそうな山から飛び立つと、“理”に倣って物凄い力、いわゆる重力か引力めいたもので押し付けられるようだ。
人類種に限った話では無いから、人々はこれを誓約と呼称している。
つまるとこ、これが有るから人類側は負けはしないけど勝てもしない。
島に渡る者たちにも篩が掛けられてた。
一方的に渡航してくる勢力が増えすぎないような、配慮の仕方。
領海に入る寸前に選別されるんだ。
で、篩に掛けられた者は境界を渡って海に浮かぶ。
乗ってた船は何処にも無いから...
ソレを牛蒡抜きでもするように収穫する船が境界前に待っている訳。
選別される条件が、今のところでは外甲殻を持っている場合なら100%渡航可で。
生身だとランダムって感じだ。
そんで...。
「十蔵、慣れてきたかい?」
話しかけてきた奇抜な彩の強化甲殻、兄ちゃん。
大手錬金術メーカーが昨年、販売してたショートプレミアムパスのピックアップシリーズ。
アヌビスって名前だった強化甲殻で。
全部揃えた猛者は、確か数名だった気がした。
「それ?」
「ああ、お気に入りだよ」
オークションとかバザーでも見かけるけど、今出回っているのは恐らく、いや。
間違いなく贋作だと思う。
知ってて大金を払う者も少なくはない。
何せ持ってる人だけが甲殻の持つユニークスキルを知ってるんだから。
出回ってる贋作を偽物だと断言できる人は限られる。
いや。
見通しが甘いな。
それらを否定するというだけで、PvPへ誘われる。
攻撃を仕掛けても、権利が譲渡されることは無い。
本人からドロップしてもだ。
まあ、腹いせにあり金と衣類は持ってかれるんだけど。
そもそも甲殻を着てれば、服が要らないって連中も多く...。
「な、なんだよ、十蔵。何、マジマジと見てるんだ」
いあ、この兄ちゃんも中身が素っ裸だったなあ、と。
「イケメン!」
「おおよ、あんがとな」
甲殻の狗面がイケメン。
中身の話はしてないよ。
ま、そんな雑談はいいか。
「輸送隊長からの通達だ。例の如く原住民らが山岳地域の稜線に現れた。数は斥候の方でもつかみ切れてねえ。だから、よ」
肩を激しく揺らされた。
「十蔵たちのようなメディックには活躍の場が広がるってもんだ!! 頼りにしてるぜ、お前の腕をよ」
ボクは十蔵。
烏形の強化甲殻で身を包み、長い嘴と三つの目を持つ。
異形種だけど。
選択した職業で今や、戦場を舞う天使だ。
ま、自分で言うのもこっ恥ずかしいが。
頼りにされるのは悪くない。
「ボクらの給料も」
「ああ載ってるから、歩合分を稼ごうな!!」
叩かれた背中はじんじんするけど。
気合が入った気がした。
よーし、がんばるぞい。