- C 901話 霧の向こう 1 -
今より少し未来で、ちょっと別の世界感。
そんなに違いはないんだけど。
若干、な~んか違うなあ。
とか、そう思える時代――。
◇
世界は、未だに未踏破な場所が多く残されている。
旧時代の戦争で、はたまた大地の怒り、灼けた空が見せた天の怒り。
神々の雄々しき御業により、人類種には未踏破地域が多く残されていた...。
例えば、世界図の最大大陸ユーラシアの北部。
北極海から海岸線に至る地域は、動植物が息づくのを拒む特異点と化している。
神々に見捨てられ、暗黒のベールに閉ざされた世界は極寒とも、或いは最後の楽園とも呼ばれ。
中に入った者は出られないとも。
未帰還者が多数あるために、話には尾ひれが付いてた。
そんな霧の向こう側のお話。
◇◆◆◇
御伽噺のように聞こえるだろうけども...
北極海には島大陸がある。
地殻変動によって出来たものじゃなくて。
すっごい昔から、ずっと其処にあったんだけど。
誰も気が付かなかった。
だってそう。
魔法で封じられ、閉ざされた別世界だったから。
近年、禁が侵されて...
まずは、幻の霧の王国へ。
――ようこそ。
◇
島大陸の外周(海岸線)には、鉄道が敷かれてある。
人類種による貴重な移動手段であり生命線だ。
普段は単線で、反時計周りにしか起動していない。
複線になるのは人類が最初に上陸した、“ニューポート”のみ。
橋頭保から発展した、ベースキャンプだ。
とは言っても、キャンプだったのは2世紀前の話で。
今では、逞しく成長して高層ビル聳え立つ、人口百万人都市へと発展。
豊かな人種と、熱に浮かされた活気がそこに横たわってた。
少し大袈裟かもしれないけど。
パワーのある街である。
ここの島大陸でしか採掘できない鉱石や植物に、動物などの資源の話。
マナ鉱石や、宝石巻貝、万病に効くと研究盛んな竜種茸などは、島大陸の外界にて凄まじい革命をもたらした。まさに、世界経済を揺るがした特異点と化したのである。
ただし、この島大陸には原住民が居た。
いいことづくめなんてある筈もない。
奢れる者にはキツイ一撃を貰う者である――。
2世紀、2世紀だ、人が島大陸に入って。
獲り放題、やりたい放題やり尽くして、その結果。
原住民から攻撃されてから、拗れたままの長い戦争が続く。
原住民には神代をも彷彿とさせる巨躯があり、神々のような高火力を放つ個体が確認されてる。
神話にでも出てくるような化け物。
神に準えれば、エジプト神話のような存在であり。
その逆に準えれば、キリストの悪魔のような姿――やはり一番はその見た目だろう。
雄牛のような頭部に筋骨隆々の巨躯。
猛々しい腰と脚は大地を噛むように立って、荒々しく戦斧を振る蛮行。
2世紀前の人々は、羊皮紙にて『神を見た』って記してた。
技術の進んだ今なら。
それが、この島の資源で産みだされた外甲殻だって分かる。
人類側も魔女や魔法使いを送り込んで、研究して対抗してきたけど。
旗色は決していいとは言い難い。
まあ、あれだ。
この旗色の悪さは人間種の性格の悪さから来ている。
敵性勢力に寝返っている者があるから。
これのせいで戦争が長引いているともいえる、最悪だ。
戦争ビジネスも一役買っているだろうけども。
単に噛んでいるだけですべてじゃないし。
そんな御蔭で、ボクの傭兵も。
くいっぱぐれないようにあるんだから、愚痴は言っても否定しちゃだめだな。
◇
さて。
“ニューポート”に新しい傭兵たちが渡航してきた。
定期便から降りた強化甲殻の兵士たちの初々しさが眩しい。
桟橋の周りには出店があって。
ここで必要な装備品が手に入る。
「地図は必需品だぜ?!」
ぴらぴらと紙を揺らす職人たち。
店主の後ろで、どんどん地図を制作しているものたち。
開拓者や傭兵から情報の売買があって、新しい地図が出来上がる。
なんせ、戦争はあっちこっちで起きてるし。
使う武器によっては。
「地形がコロコロ変わりやがる」
「ほーん」
気のない返事を返した傭兵。
肩を竦めて。
「ソレ、俺らの砲撃のせいだな」
背中に大きな砲身を担ぐ兵があった。
正規の軍人さんもこの街に集まる。
クエストの受注はこのまちからでしか受けられないからだが。
「またかよ!!」
地図職人のボヤキが聞こえた。
ま、地図を買うのが最初のクエストだな。