- C 895話 ルビコン川のほとりにて 5 -
下種男は長身にして痩せ型。
深い緑色の長髪が背を覆い隠している。
なんという毛束!?
当分、禿げそうにないけど。
ストレート・ワカメみたいな雰囲気だ。
顔のパーツも悪くない。
ただ前髪が長すぎて、ちゅばちゅば吸われてるラミアでも、相手の顔を見ることが困難そうだ。
そんな不審者だけど。
どうやって、VIPひしめく上階へ上がってこれたのか。
勿論、金である。
金回りのいい上客だ。
入店したら支配人を呼びつけて金貨を渡す。
袖の下だな。
で――上客には上客用の娼婦が割り当てられる。
妹たちの何人かは“禿”として、社会勉強してるんだけど。
この下種。
禿の少女にまで中指動いたって話で。
リリィのジト目が刺さってる。
この際、義姉は尊い犠牲のようなものとして。
妹たちは守らねばならない。
「そんなあ」
下種の口吸いから解放された一寸で、ラミアが鳴いた。
男の方も、諦めの早いリリィに向けて。
「ラミア少佐が可哀そうじゃないかな? ま、拘束している私から彼女を奪い返そうとするのは簡単ではないだろうけども」
ラミアの目は弱い部類のだけど魔眼である。
利き目ではない方が、だが。
彼女の意思で発動する。
効果はスタン。
麻痺毒とも捉えられているけど、正確にはスタンだ。
しかし、直視されているのに全く効果がない。
「まさか?!」
それぞれの視線がラミアに集まる。
「わたしの唾液にスタン軽減効果が!!!!」
「ないよ、ただの甘くてその気にさせてくれる、フェロモン入りの唾液だ。魔法遺物で毒や腐食の類を軽減しているんだが、キミの“卵、産みたーい”って欲望に負けそうになってるだけさ」
ほーんって、それぞれが思った。
妹たちも、ラミアの為に壁を向いてくれたけど。
そっか...
ラミア少佐って卵、産めるんだ。
「ちょっと、産めないよ。ちょ、本気にしないでよ? や、マジ」
下種の胸を激しく殴ってた。
くすくすと笑う男。
「リリィ君まで真に受けるか」
「な、姉さんなら産めそうかなって」
「だから、産まないって!!」
何かの魔獣の因子はあると思うけども。
どちらかと言うと強化人種っていうタイプの人間であろう。
帝国の魔女が晩年、人工勇者計画ってのに着手してたって話の流れがあって、特務機関でも一部がそんな実験をしてたって噂話がある――「噂か、特務機関の事だから噂が立つんなら、それ真実レベルかも? 普通なら火の気のないところに煙は立たずって言えば、納得はするよな...信用があるから」
再び吸われるラミア。
それを見つめるだけのリリィたち。
えっと、アリスさんが下階に再び参上したようですが。