- C 893話 ルビコン川のほとりにて 3 -
ボクはアリスさんに小さな精霊炉をプレゼントした。
反永久機関として使うことが出来る。
中に入る精霊は枯渇――正確には、エネルギーとして吸い上げ切ったら消滅する。
通常、中型炉や大型炉だと契約が満了した精霊は全体意識へと帰還するものだけど。
炉は常にエネルギーを欲する。
故に。
再び召喚術式が組まれる訳だが。
ボクの炉は消滅と同時に強制召喚がはじまって。
閉じ込めるを繰り返すのだ。
この小さな精霊炉は...。
「なにに使うんだい?」
「煙草に火を点けるとか」
遊びで作ったおもちゃだし。
好きなように使ってよと、しか。
「好きなように、か」
◇
西大陸へ戻ったアリスさんは、その足で404へ向かう。
魔導技術は魔導に詳しく明るい人間からの、第三者意見が欲しくなる。
当然と言えば当然か。
だったら、もっと小さいのにすればよかった。
「興味深い」
ラミアは炉の中にある精霊を見る。
まるでコップで閉じ込めた蜘蛛のようだ。
強く降ると、カプセルの中の小さな何かが吠えてるようにも――
「知り合いが作ってくれたものだが」
「精霊炉は鳥籠であるのですけど、中に入る者の意思を尊重して作られてるものです。ですから、彼らから自由を奪うことは出来ず、こちらに干渉することも出来てしまう。なぜならば...召喚術式が不完全だからです!!」
不完全?
アリスさんは呟く。
ラミアは少し特異な諜報員であって、魔女の類の魔法使いじゃない。
義妹のリリィの方が未だ。
それでも、魔導大隊を率いる上で押さえてるところは押さえてた。
「この世界の魔法は不完全です」
いや。
この世界ではなく、時代が神代から離れるにつれて不正確になっていってる。
そうだなあ、100だった完成度から50まで失ったというと分かり易いか。
召喚術式は配慮しまくって。
原形を残していない、とか。
「不完全...ところで」
アリスさんが話題を変える。
この精霊炉に関係して、だが。
「魔女狩りの発端となったものだが」
「関与はしてませんでしたよ。というか、こちらも動くことが出来ませんでしたし、むしろ甲蛾衆がたの方が掴めてたのでは?」
一緒に仕事するうえで、似た組織との繋がりは確かにある。
シノビとかいう単語を自称してた連中だ。
確かに動きや信条がストイックで洗練されてて、サバサバした雰囲気があって。
好きな部類だとは思うけど。
傭兵よりも尖り過ぎてるきらいがある。
「――付き合った連中と一緒に見られるのは心外だが。ああ、こっちは把握してた。横に流すことも可能だったが、それをして窮地に陥るのはそちらだ。現に下手に動かなかった分、身元調査に綻びが出ることは無かっただろ?」
把握できなかったなら、それでいい。
把握できていたなら、それでもいい。
「切り捨てないんですか?」
不思議そう。
ラミアは手切れになるかもとか、思ってた。
「いや、そこはない。ほれ、土産の炉も見せてるじゃないか」
今のところ、炉心の暴走って事になってる。
あれは事故なのだと。