- C 892話 ルビコン川のほとりにて 2 -
城州王側の研究者にも、今までの精霊炉では無駄が多いと考える者が出てた。
単にエネルギーの塊になぜ、媚びへつらう必要があるのか。
全体意思だったものは、自我を持つ。
そして欲求を抱く。
人外ならざるものだからこそ、信仰や畏怖するのであって。
頭の螺子が飛んでる錬金術師には、一般の人には抱かない何かが芽生える。
彼らなりの信仰なんだろうけども。
で、彼らは禁忌に触れた。
結果は散々だ――「いや、精霊を怒らせたという事はひとつの成功じゃないか?!」――なんて考えるバカも現れる。
マニュアルも無しによくヤると思うよ。
ボクと同じ立ち位置に至るまでは千年はえーよ。
◇
事故調査に携わった者から寧正は興味深い証言を得る。
「要するにアレは破壊工作ではないと?」
俄かには信じられないけど。
精霊炉の暴走だって言質も取れている。
どうみても第三者の破壊工作にしか見えないけど。
科学者たちの暴走から来た。
「理解に苦しむな。特殊魔導弾頭ってだけでも不安定な砲弾の投射実験に際して、なんだって安定運用してた制御法を止めて、思い付きの精霊酷使に舵が切れる?! いや、効率が悪いというのは理解できなくもない。学園都市にて教鞭こそは取らなかったものの学園長だった経緯からも... なんとなく理解しようと努力は惜しまないつもりだが」
頭を抱える城州王がある。
処罰がしたいが。
そもそも投射実験であって。
南方の海上を蒸発せしめた威力は、一応の成功だと言えなくもない。
意図がどうであれ、だ。
《実験と言ってしまったからなあ》
額を拳で小突きながら。
書類を無造作に机上へ放った。
「――分かった、錬金術士たちの罪は問わぬ。(調査委員長は未だ室内に留まっている)んふ、ああ、それと術士たちに伝えておけ、無許可の実験は思い付きではなく書類を送って寄こせと、な」
そう告げると。
委員長は部屋を出て行った。
しばらく、寧正は首を回して単調な声音を挙げてた。
どっと疲れる。
次に同じ投射実験が、いつ開始できるかは未定である。
錬金術士たちが壊した精霊炉は、特殊魔導弾頭のために再設計されたもので。
“湖の乙女”号と同じ艦艇用大型精霊炉だった。
聖櫃が持つ高度な知識の流出が止まらないといったところで。
退職祝いと称して、彼らの設計図から削りだしたひとつだった。
ま、聖櫃にしてみれば。
くれてやった覚えはないというだろう。
「予備も削りだしておけば」
頭の痛い話が続く。