- C 891話 ルビコン川のほとりにて 1 -
試験運用艦の事故調査結果が出た。
結論から言うと、まんま事故だった――何者かによる工作が原因とは断言できないレベルの事故。
仮に事故以上の工作だった場合は、お手上げでしかない。
違和感をもベールに隠した見事な破壊活動。
「まあ、原因かどうかは分かりませんが――」
直接的なのか、或いは。
何かの比喩でも入るのか。
精霊炉周辺は原形を留めないほどの荒れようで。
東洋王国でも採用している技術だから、かなり慎重に調査してた。
◆
そんで、
アリスさんはボクの下に精霊炉について尋ねにきてた。
精霊炉――簡単にまとめれば、契約召喚で結ばれた“労働条件”にならい、精霊は人では無しえない絶大なエネルギーを提供し。人々は精霊に娯楽を提供するというもの。
ま、この場合の娯楽というのは精霊の嗜好について千差万別なのだ。
さてさて。
アリスさんは、ボクの工房をじっくりと眺めている。
勘のいい人だ。
早速、何か違和感に気が付きやがった。
「ここの電力、自然エネルギーですか?」
研究棟だと呼ばれてる掘立小屋。
女王が執務と接見に使う館から裏側に位置する、まま、単なる工具入れのような小屋だが。
その地下に、ボクの工房がある。
キリングヤシガニに穴を掘らせて約2週間。
拡張魔法で部屋に形成しなおして5日あたり。
聖櫃から機材を貰って...
「風車あったかなあ」
すっとぼけてみた。
背中に刺さる視線。
痛い。
腰を両手で揉まれた――変な声が出た。
「精霊炉ってさあ」
◇
精霊に人格が生まれるのは顕現した時からだ。
それまでは単一、いや、単一なんて数えることもできない。
星に人格があるのだとしたら、だ。
精霊とは。
「つまり単にエネルギーの塊だと思えると?」
アリスさんは核をつく。
何しに来たのかざっくりだけど分かってきた。
「いあ、エネルギーだよ」
例えば稲妻を捕まえるとする。
この時、精霊という人格を与えることで人々は知覚できるようになる。
これが観測だ。
観測者がイメージしたものにつくり替えられる。
麒麟に見えたとすれば、麒麟に。
虎のようだすれば、雷獣という虎に。
角があるとか、
翼があるとか、
牙があるとか...
それこそ統一性のない得体のしれないものになる。
「でも、エネルギーなんだよな」
「そうだね。契約召喚というのは魔術的観測で精霊たらしめているもの。彼らの報酬は崇拝かもなあ、だってソレが加われば、より強力に顕現が出来るようになるからね。全体意思から切り離されたい欲求が強い奴を召喚でいることになるんだよね」
理解してもらえただろうか。
やや不安だけど、ボクはボクの仕事に戻るよう...
工房の奥へ、ん?
身体が動かない。
アリスさんの両手はボクの腰に巻き付いたままの様で。