- C 890話 王国の行方 10 -
東大陸に興ったクイーンズランド王国には、幼女帝が擁立された。
錫杖をマジカルステッキのように振り回すさまは...。
荒んでた人々の心に『可愛い』を植え付けることに成功したのだ。
◇
豪奢なドレスから、魔法少女然とするヒラヒラへ。
新設された政府首脳陣は披露目まで、寧華さんの戴冠式の全貌を知らされてなかった。
いあ、知ってたら止められてたと思う。
「可愛かったから、いえ違いますな。戴冠式というのは、もっとこう...あ、でも、あー、もうー」
髪を掻きむしる大臣たち。
理性でなら分かっている。
教会の大司教から“天に祝福された王冠”を、戴くという荘厳な儀式。
女王派の悲願であり。
人々の希望である。
ま、そこは理性的なトコ。
皆が悔しいのは。
理性よりも父性や母性の感情が打ち勝ったことだ。
大司教も顔がほころんで――「うん、神さまも可愛いからで赦すと思う」って宣ったからだ。
魔法少女の誕生式典じゃないのに。
「この国が不安です」
首相が四つん這いに崩れた。
「大丈夫だって☆」
寧華さんは素だな。
演技じゃない気配がする。
◆
東大陸の“戴冠式”は、大々的に放送された。
聖櫃の3Dプリンターで量産した、遠見の鏡式テレビジョンを隣国に送り付けて――ここに、神に赦された新たな国家建国を宣言する...とか、なんとか。
正式にクイーンズランド王国が発足したんだけど。
だから何?的な感情がもっともを占める。
珊瑚海や、ソロモン海の諸部族にとっては。
どーでもいい事にはならない。
広場に備え付けられたテレビジョンに群がる族長たち。
国や諸部族問わずに送りつけたんだけど。
これ結構、好評で。
宣伝以上の売り上げ効果が叶った。
は、置いといて。
好評ついでにクイーンズランド王国への朝貢外交も、順調にスタートした。
西大陸からも辺境公の使者が訪れたという。
◇
「はい、午後のお仕事は終了!!」
寧華さんは接見の間から逃げるように飛び出していった。
もとより公務がキライな人だ。
ずっと座ってて、尻穴が痛くなったとボヤいてたし。
我慢できずに窓から逃げ出してた。
「で、研究棟に逃げ込んだと?!」
ボクの工房だ。
地下2階にゴーレムの製作所を兼務した格納庫がある。
上の家屋はカモフラージュ。
「マル殿に折り入って」
「嫌ですよ」
「未だ、何も」
いわ、分かってるよ。
ゴーレムかホムンクルスとかで、そっくりさんをとか。
そういう話になるんでしょ。
バレたら、ボクが怒られるんだ。
「むー、勘のいい子は嫌いじゃないけど、ここは人助けだと思って聞き流してくれるもんだろ?」
だから。
それをしたらボクが怒られるんだ。
損するのがボクじゃ割に合わない。
「なるほど見返りか」
だから違うって。
仕方ないので、ロブスター型ゴーレムで摘まみだした。
彼女はしばらく入室禁止にする。
「このわからずやー」
言っててくれ。
◆
さて。
再び、ダービーの娼館へ戻る。
城州王の嫡子、寧恬による魔女狩りが国家事業の一つとして執られた。
スパイの炙り出しの事なんだけど。
これがまた、実に多国籍でバラエティ豊かな人材が捕まってた。
「笑えるのが、同じ勢力同士を捕縛してたりってんだから、間抜けな奴らだよ」
冒険者あがりの傭兵たちの噂話だ。
たまたま職質を掛けた警官は、白服の監視者を吊ったって流れの物。
まあ、何処までが本当だか。
「盛りすぎんなよ?」
傭兵を率いる士官がジョッキグラスを注いだ物と空の物で交換してる。
この店はセルフサービスなのよ。
娼婦さんらには好評なんだけど、客からはちと煩いかな。