- C 889話 王国の行方 9 -
城州王にとって、聞き覚えの無い女王が“東大陸”に立った。
そいつは、寧華さんだ。
すっかり元気になって、玉座に就くほんの一瞬まで――飛んだり、走ったり、転がったり。
歳相応の女の子だった。
とてもよく笑う、いい子なんだが。
◇
アバターと、魂年齢のギャップが。
すっごく~、すっご~くある......今日この頃。
「黄昏んな!」
ボクを背後から襲うのも、寧華さんだ。
なんかねえ。
他人事のような気がしないというか。
「こうやって、抱き着いてもセクハラだとか不潔、汚らわしい、このデブ! ハゲ!! なんて言われないのが不思議だよね。ま、マル殿は泉州王だった頃も、何も言わなかったし。なんか、こう背中越しに腰を当てて振ってても~ 愉しんで貰えてるよねえ」
嫌な言い方をする。
当人としちゃあ、久しぶりの女の子を満喫してるんだろう。
ほら。
唐突に女の子になったあるあるって言うのかな?
胸元をガバっと広げてむっちりとした脂肪を見て叫ぶんだ。
『うわっ! 女の子になってる』って。
違和感は確かめなくてもあるでしょ。
いきなりワンサイズ、小柄になるんだから。
今まで着てた服が。
こう、するりと脱落する恐怖が、さ。
あれは怖いよ~
スライムから元の人型に戻る時、サイズ感を間違えると...
ボクでも肩口から拘束具が抜け落ちる雰囲気に。
ずんどうになった肢体は、少年のよう...だよ。
「――っ、背脂浮いてるようなデブが近づいて来たら、相手、女の子じゃ無くても警戒はすると思いますが。まあ、確かに今の寧華さんはエサちゃんみたいなギャップ萌えを感じなくもないですね」
褒めちゃあ、いない。
エサちゃんのような変態さんだと言った。
いや、分類としちゃあ。
メルちゃんとも。
「メルリヌスちゃんか、あの子も抵抗なかったっぽいね。泉州王で腰に手を回しても(肩を竦めて)動じることなく平然と。誰かに見せつけるような...アレは天然だから怖い子だよな」
天然というか。
単に変態だからって感じがする。
アレにちっちゃい子を近づけてはいけない気がするよ。
「マル殿だからじゃないの、かい?」
ふふ、残念。
エサちゃんも吸おうとして返り討ちに合った。
「ほ~ん」
メルちゃんの奇行を知って、寧華さんは距離をとったのである。
さて...
◆
西大陸の体制が整いつつある。
三方向を相手取っている状況下でも、南洋王国の内政事業は止まることは無い。
辺境公制度の逆手。
地方領から見ると、決して自分たちの領地は豊かではない。
開墾させて田畑を増やし、税収の大半が穀物という状況――前王朝との約定では、収穫量の30%ちかくは売買することが出来た。
では、今後も。
買ってくれる交易商が居なくなってた。
口々に『今上陛下に睨まれたくない』と、返答。
戦における食料事情は健全そのものだが。
軍資金が底を尽き掛けている。
金だけあって、回らないもので。
金が無くなっても、人心が離れていく。
「長官?」
“ノーザン・テリトリー”州公が机上で溺れてる。
開けてた戸口に人の気配があったから、声を挙げたに過ぎない。
「ま、国防長官が宜しかったでしょうか?」
そちらの長官は、最前線のホワイト・レイク国境都市に出向いている。
兵の士気を揚げて、労っている頃あいだ。
インクを頬に乗せた、州公が。
ゆっくりと身体を起こした。
まま、背もたれに沈んだ。
「財務長官か」
「はい財務長官です。小言しか言わない、あなたの幼馴染でもありますが」
紙の束を抱えている様子。
決済が必要なもののようだけど。
州公に差し出さないのは友人としての配慮なのだろう。
「交易できそうか?」
「難しいですね。旅商人でさえ我が領内を迂回していくようになりました」
徹底しているという事だ。
辺境公制度には領主の自由裁量権が認められている。
王国の中の小さな王国だ。
自分たちのことは自分たちで――リスクも大きいけど、リターンだって。
成功すれば、取れ高はまるまる自分たちのモノに成る。
ただし、ある一定の緊張感があるから成立する。
「断崖と数十キロもある海峡に阻まれているとは言え、今現在、東に建国された国は侵略の兆しが見えない。互いに同一の敵を見いだせない...だった、か?」